コラム

 公開日: 2013-08-14  最終更新日: 2014-06-04

我が家の犬はいづこにゆきぬらむ今宵も思ひいでて眠れる ─写生とお盆─

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。






 教師にして歌人の島木赤彦が死の10日前、斎藤茂吉へ書き取らせた最期の吟である。

「我が家の犬はいづこにゆきぬらむ今宵も思ひいでて眠れる」

 飼い主の異変を察知したのだろうか、愛犬はしばらく姿を見せない。
 愛猫をそばにして詠んだのだという。

 同時期、赤彦はこうした一首も遺している。

「たまさかに吾を離れて妻子らは茶をのみ合へよ心休めに」

 妻も子も、ずっと私を看病し続けで大変だろうから、たまには病床から離れてゆっくり茶飲みでもしたらどうかといっている。
 死を目前にしての、このゆとりにはただただ、脱帽するしかない。

 小学校の教師としての赤彦は「生徒経歴簿」を作った。
 ウィキペディアは記している。
「個性的な教育を進めるために、家庭状況、体格、学力、性格などを細かく記録した」
 生徒の一人一人をよく知らなければ、一人一人にとってもっともふさわしい指導はできないという信念だったのだろう。
 短歌雑誌『アララギ』の発行に携わりつつ、「写生短歌」という歌風をつくった赤彦の原点を思わせる。

「ひとつ蝉鳴きやみて遠き蝉聞ゆ山門そとの赤松はやし」

 近くにいる蝉が一匹、鳴きやんだ時、山門の外にある赤松の林の方から蝉の声が届いてきた。
 一匹、鳴きやんで、新たに、他の一匹が鳴き始めたのではない。
 近くの声が大きく聞こえるために今までは聞こえていなかった遠くの鳴き声が耳に入ってきたのである。
 この遠近感はどうだろう。

「山深くわけ入るままに谷川の水きはまりて家一つあり」

 渓流のそばを上流へ向かって歩いて行くと、だんだん水流が細くなったあたりで、不意に、一軒家が視界に現れた。
 ここには活きた時間があり、活きた空間があるだけでなく、深山に暮らす人の生活ぶりへの関心までも含んでいる。 

「わか庭の柿の葉硬くなりにけり土用の風の吹く音聞けは」

 桜の時期が去り若葉が勢いづいてきたと思う間もなく、土用ともなれば、もう、柿の葉は硬くなり、天ぷらは愉しめない。
 土用は新たな季節が始まる立夏などの前、18日間のことである。
 万物が一旦、土に還ってまた、新たな存在としてこの世へ姿を表すように、新たな季節が始まるためには、古い季節の要素が崩壊せねばならない。
 土に化す作用が必要なのである。
 
 お盆へ入る13日の朝一番、仙台市いずみ墓園へご供養にでかけた。
 墓前には、花やお菓子に加えて軍服姿の遺影とウィスキーも飾られ、ご一家が勢揃いされた。
 遠くからも足元からも、虫たちの声が、あるいは遠い距離を貫くほど勁(ツヨ)く、あるいは消えそうにか細く続いて途切れない。
 他に読経の声は聞こえず、墓園全体へ結界を張り、あらゆる御霊方へのご供養も併せて行った。
 肉体が土に還った先亡の御霊が天から還ってこられるという私たちの感覚は、淵源を辿りきれないほど深いものだろうと思われる。
 その感覚へすなおに心をゆだねるお盆は、私たちが心の源泉を美しく掃除する時期なのではなかろうか。
 
 消えた愛犬を想いつつ眠りへ就こうとする歌人の真っ白な心は、清浄な泉そのものに思える。

 今日の守本尊千手観音様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=IvMea3W6ZP0




 こうした内容に関心のある方はブログ(http://hourakuji.blog115.fc2.com/)の拙稿をご笑覧ください。
 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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