コラム

 公開日: 2013-09-07  最終更新日: 2014-06-04

傷ついた日本人へ(その22) ─苦の現実とロセッティの『風』─

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。





 被災地を訪れたダライ・ラマ法王が高野山で行った講演の概要が『傷ついた日本人へ』という本になりました。
 皆さんと一緒に、要点を考えてみましょう。

 前回は、煩悩(ボンノウ)が起こってくる様子を学びました。

 私たちは、知性のはたらきによって論理的に判断したり、想像をたくましくしたり、問題の探求をしたりと、人間でならではの奧深い世界へ入ります。
 しかし、なまじ知性がはたらくことによって、不安や期待や猜疑心や悩みも起こります。
 そして、自分でつくりだした実態のない概念にとらわれ、欲しがったり、貪ったり、怒ったり、怨んだりする場合もでてきます。

 たとえば、一週間前に失敗を厳しく指摘された上司の顔を思い出してムカムカするなどはその典型です。
 一週間前に起こったできごとはもう、どこにもありはしません。
 上司の声も表情も、その時限りのものでしかありません。
 しかも、上司そのものが、たった今、この世にいるとは限りません。
 だから、ムカムカするのは、今となれば上司のせいではなく、自分の記憶とそれを想起するはたらきによるのです。
 それなのに、性懲りもなく思い出しては勝手にムカムカする、これが典型的な煩悩の表れです。

 こうして私たちは目に見え、耳に聞こえるものや思い浮かべるものなどにとらわれ、思考も感情も左右されます。
 このことをお釈迦様は「苦」と説かれました。
 仏教は苦を三つの面から考えます。

1 苦苦…感覚的な苦

 痛み、寒さ、怒り、恐れなど、外的な刺激によって生ずる苦しみ。

2 壊苦…状況に伴う苦

 夢がかなわない、仕事がうまくゆかない、不幸な境遇にいるなど、意に添わない現状がもたらす苦しみ。

3 行苦…生まれてきたそのものの苦

 人間は精神を持った生物なので、必ず概念にとらわれ、煩悩のはたらきから逃れられません。

「どこにいてもどう生きても、それから逃れられない。
 それは生から苦を切り離すことができないからです。
 生まれてきた時点で、すでに苦しみが内在しているわけです。」

 ここに輪廻(リンネ)が生じます。

「仏教では、この煩悩がある限り、煩悩がはびこるこの俗世にとどめ置かれ、死んでもまたこの世界に生まれ変わり、苦のある生涯を繰り返し送り続けると考えられています。
 これが『輪廻』です。」

 お釈迦様は悟られた後、最初にこのことを説かれました。

「生まれてくることは苦しい。
 それは煩悩が原因だ。
 煩悩がなくなれば苦も消える。
 そしてその方法は存在する。」

 煩悩がなくなり苦が消えれば解脱(ゲダツ)です。

「この真理のとおりに煩悩による妨げや障り『煩悩障(ボンノウショウ)』を断滅し、そのとらわれから解き放たれることを『解脱』といいます。」

 だから、苦と輪廻から脱したいならば解脱を目ざすしか方法はありません。
 そして、この真実を見つめ、自他の苦を克服しようとするのが仏教徒です。

 前回は、映画『風立ちぬ』に言及しました。
 今回この稿を書くのは、『風立ちぬ』の宮崎駿監督が引退の記者会見を行った翌日となりました。
 まさに諸行無常、万物流転です。
 前回の稿で西條八十の『風』を紹介したところ、仙台市在住のAさんからファクスをいただきました。
 この詞はそもそも、英国の詩人クリスティーナ・ジョージナ・ロセッティの作品で西條八十の訳詩によること、そして教科書で学んだという英文も手書きによって綴られていました。
 ご指摘を受けてみれば、私も英文を読んだような気がします。 

1. Who has seen the wind ?
Neither I nor you;
But when the leaves hang trembling
The wind is passing thro.

2. Who has seen the wind ?
Neither you nor I;
But when the trees bow down their heads
The wind is passing by.

(誰が風を見たのでしょう?
 誰も見たことありません
 でも木の葉が囁くとき
 風は通り過ぎていく

 誰が風を見たのでしょう?
 誰も見たことありません
 でも枝がおじぎをするとき
 風は通り過ぎていく)

 何という簡潔さと静謐さでしょう。
 ロンドンに生まれた女流詩人なのに社交界を厭い、英国国教会の敬虔な一信徒として隠者のように生きたロセッティらしい空(クウ)の感覚を感じます。
 そういえば、記者会見する宮崎駿監督は風のようにさばさばしておられ、笑顔が乗り移ってきました。

 今日の守本尊千手観音様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=IvMea3W6ZP0


 ご関心のある方は当山のホームページ(http://hourakuji.net/)をご笑覧ください。
 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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