コラム

 公開日: 2013-09-10  最終更新日: 2014-06-04

秋刀魚焼くうたがひもなき妻の日々(大槻千佐) ─実生活と理念─

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。





「秋刀魚焼くうたがひもなき妻の日々」(大槻千佐)

 大正15年(昭和元年)生まれの大槻千佐が句集『初心帖』(昭和58年発行)に収めた一句である。
 女が一人、じっと秋刀魚を焼いているという事実は、ただ、物理的にそう〈在る〉のではない。
 一人の男へ寄り添って生きる一人の女という〈性に裏打ちされた人間の生〉が輝いている。
 それにしても、「疑いもなき」とは、何と強く、潔く、そして重い言葉だろう。
 ただ、こう言い切られてしまうと、生活の襞(ヒダ)はもう、外部から読めないし、読ませたくもないのだろうと、その完結性の前で佇むしかない。
 もちろん、ここまで不動の力を持った「妻」は、正妻であるかどうかという問題を超えている。
 立場や境遇を超えきった一人の人間にとって動かしようのない真実なのだ。

 9月4日、最高裁大法廷は、画期的判断を示した。
 遺産相続の際に、婚外子(結婚していない男女間に生まれた子供)の取り分は、婚内子(結婚している男女間に生まれた子供)の半分とされている民法の規定について、「法の下の平等を定めた憲法に違反する」としたのである。
 これで、親同士が結婚していようといまいと、生活形態にかかわらず、子供たちは平等に遺産を相続することになる。
 民法の規定は出生による不当な差別であると判断された。

 最高裁の判決である。

「子が自ら選択・修正できない事柄を理由として、その子に不利益を及ぼすのは許されないとの考えが確立されてきた」

 裁判の当事者である和歌山県在住の女性A氏(42才、婚外子)の意見である。

「どんな立場で生まれようと、すべての子どもは平等という当たり前のことを訴えてきた」
「私の価値は(婚内子の)半分ではない」
「なぜ、子供が親の責任を負わされることになるのか」
「もし選んで生まれてこられたなら、あえて婚外子という状況は選ばなかった」

 婚内子側のコメントである。

「私たちは幸せな家庭を壊され、家から追い出されました。
 それでも母は(婚外子の相続を半分とする)規定を心の支えに精神的苦痛に耐えてきました。
 最高裁の判断は、日本の家族形態や社会状況を理解せず、国民の意識とかけ離れていると思います。
 絶望しました」

 私たちは理念に導かれ、社会正義がどこにあるかを考え、その実現を目ざしつつ歴史を重ねている。
 現代では、自由と平等が最も神聖な理念と仰がれ、私たちへ正邪・善悪を判断させる立場にある。
 自由は〈選択権の確保〉として、平等は〈区別の放棄〉として、究極まで求められようとしている。
 だから、A氏は、選べるのなら婚外子として生まれて来たくなかったし、自分の価値は婚内子の半分ではない、と主張してきた。
 しかし、私たちは誰一人、意識して親を選べない存在であり(因果応報の理から観れば、無始の過去から積み重ねた自分の因縁によって、親は選ばれている)、人間の価値は、誰によってもお金に換算され得ない。
 また、親の身体と子供の身体は、モノとして別ものではあっても、いかなる親のもとに生まれたかは子供の人格形成と人生行路へ大きな影響を及ぼし、いかなる子供に育つかもまた、親の人格形成と人生行路へ大きな影響を及ぼし、そもそも人間における親と子は、そうした存在でしかあり得ない。
 一人の男としての父親と、一人の女としての母親の生きざまが、子供の心と生きざまに無関係ではあり得ない。
 ここに実生活と理念とのギャップがあり、だからこそ、私たちは社会制度をより、理念へ近づけ、差別意識という魔ものを追い払おうとしている。

 ただし、この闘いは、今回の婚内子側のように、理念という刃で斬られた者に「絶望」をももたらすことを忘れてはならないと思う。
 還暦目前の俳人が実生活の根をわしづかみにした冒頭の句は、闘いの癒しになってくれるのだろうか。
「秋刀魚焼くうたがひもなき妻の日々」
 
 今日の守本尊文殊菩薩様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=WCO8x2q3oeM


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 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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