コラム

 公開日: 2013-10-17  最終更新日: 2014-06-04

寺子屋の教え『実語教・童子教』を考える(その64)─誉める・叱る・抱きしめる─

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。





 寺子屋などで江戸時代まで用いられていた『実語教・童子教』を読んでいます。

「胎外に生れて数年(スネン)
 父母の養育を蒙(コウム)る  
 昼は父の膝に居て
 摩頭(マトウ)を蒙(コウム)ること多年(タネン)  
 夜は母の懐(フトコロ)に臥(フ)して
 乳味(チミ)を費すこと数斛(スコク)」

『父母恩重経(ブモオンジュウキョウ)』は、我が子が生まれた時、両親はどんな思いになるかを示しています。

「既(スデ)に生まれて、草上に墜(オ)つれば、父母の喜び限りなきこと、猶(ナ)お貧女の如意珠(ニョイシュ…願いを叶える宝珠)を得たるがごとし。
 その子、聲(コエ)を発すれば、母も初めて此の世に生まれ出でたるが如し。」

 子供が生まれた時の喜びは、まるで、貧困に喘ぐ女性がどんな宝ものをももたらす宝珠を手にしたようなものです。
 そして、おぎゃあという泣き声を聞けば、まるで、自分自身がこの世へ生まれ出たような気持にもなるというのです。

 胎外へ生まれ出てからは何年も父母に育てられます。
 人間は生後最も自立できない生きものであり、立ち上がって両手を使えるようになるまでは約1年を要します。
 野山などの自然界にあっては、食物連鎖と弱肉強食の掟がこんな悠長な生育を許しはしません。

 父親から頭をなでてもらうことが象徴的にとりあげられています。
 なぜでしょうか?
 私は、ご来山されるご家族に小さなお子さんがおられる時は、極力誉めるようにしています。
 修法中に静かにしていれば、終わってから「よく、おとなしくしていたね」「あっ、合掌していたんだね」などと声をかけます。
 修法中に騒いでいれば、「元気だね」「この勢いですくすく育ってね」などと声をかけます。
 そして、タイミングが合えば、軽く頭をなでます。
 ほとんどの場合、本人はくすぐったそうな、照れくさそうな顔になりますが、ご両親などは「和尚さんに誉めてもらってよかったね」「また、誉めてもらえるように、良い子になろうね」と笑顔で励まします。
 中には、次回にご来山のおりに、「この前、住職さんに頭をなでてもらってから、とても良い子になりました」と報告してくださる方もおられます。

 自分が幼少の頃のできごととして頭をなでられた記憶は残っていませんが、父親や、先生や、先輩といった〈自分より明らかに人間として上の人〉から受ける誉め言葉は、いつしか強い導きの力になっていたのかも知れません。
 当山では、5年前、広島在住のAさんから、ご自身が小学生の頃、『ほめほめ便り』があったことを教えていただきました。
 生徒は「こんな嬉しいことがありました」「こんなことをしたら喜んでもらえました」などと校長先生へ便りをしたためます。
 すると校長先生が「それはよかったね」と必ず返事を書き、「ほめあいだより」として貼り出すのです。
 そのおりの紹介文です。

「かつて、O小学校に奉職しておられた校長S先生は、手紙を通じて児童たちと感動体験についてやりとりをしておられました。
 その内容は校長室前へ『ほめあいだより』として掲示され、一人の善き行動、善き言葉、善き思いが、たくさんの人びとに共有される宝ものとなっていました。
 先生の退任に伴い、PTAが『ほめほめ集』を発刊し、その偉業を讃えました。
 当時小学生だったXさんは、今でも先生との交流を大切に心の引き出しへしまっておき、時折引いては、『あの頃願っていたように生きよう』と決意を新たにしておられます。」

 校長先生は「あとがき」に書いておられます。

「『ほめほめ』は、叱ることをやめよということではない。
『叱る』と『ほめる』は物の裏と表の関係であって、叱ることがあるからほめることが成りたつのである。
 古人が『七つほめ三つ叱れ』と言っているように、できるだけほめることを多くしたいというのが、ほめほめの心である。
 涙して、だきしめながら叱ることのできる親は、ほめることについても名人であるはずである。
 ただ怒ることだけは絶対に避けたいものである。」

 校長先生や父親の誉める力と叱る力は、共に慈悲から生じる観音様の微笑と不動明王の忿怒そのものです。

 一方、母親は抱きしめ、乳を与えます。
 それだけではありません。
 やはり『父母恩重経(ブモオンジュウキョウ)』が説いています。

「爾來(ソレヨリコノカタ)、母の懐(フトコロ)を寝處(ネグラ)となし、母の膝を遊び場となし、母の乳を食物となし、母の情を生命となす。
 飢えたるとき、食を需(モト)むるに、母にあらざれば哺(クラ)わず、渇(カワ)けるとき、飲料を索(モト)むるに、母にあらざれば咽(ノ)まず、
 寒きとき、服(キモノ)を加うるに、母にあらざれば着ず、暑きとき、衣を撒るに、母にあらざれば脱がず。
 母、飢に中(アタ)る時も、哺(フク)めるを吐きて子に啗(クラ)わしめ、母寒きに苦しむ時も、着たるを脱ぎて、子に被(コウム)らす。
 母にあらざれば養われず、母にあらざれば育てられず。
 その闌車(ランシャ)を離るるに及べば、十指の甲(ツメ)の中に、子の不浄を食らう。
 計るに人々、母の乳を飲むこと、一百八十斛(コク)となす。
 父母の恩重きこと、天のきわまり無きが如し。」

(生まれてからは、母親のふところを寝床とし、母親の膝を遊び場とし、母親の乳を食べものとし、母親の情けをいのちとします。
 空腹になれば、母親に食べさせられ、喉が渇けば、母親に飲ませられます。
 寒い時は母親に着せられ、暑い時は母親に脱がせてもらいます。
 母親は、自分が空腹に耐えても、我が子へ口に含んだ食べものを与え、自分が寒さに耐えても、我が子へ自分の着ものを着せます。
 母親でなければ養育はできません。
 揺りかごから離れる頃には、我が子の指を口へ含み、爪にはさまったものをとってやります。
 母親は180石(コク…ドラム缶160本ほど)もの乳を我が子へ与えます。
 こうした父母(ブモ)の恩の重さは、天空が果てがないのと同じように無限なのです)

 誉めてくれる、叱ってくれる、抱きしめ、乳を与えてくれる父母なくして、人は人間として育ちません。
 現代では、両親が揃っていない家庭も少なくありませんが、そうした場合も大人たちは、父親に代わり、母親に代わって真剣に子育てをしておられます。
 育てられ、いのちをつないでいるいかなる人も、必ず、こうした父親としての、母親としての思いをかけてもらい、手をかけてもらってこそ、今のいのちがあります。
 父母の恩を忘れないようにしたいものです。
 ちなみに、仏道では、恩を忘れず戒めを守ることがあらゆる修行の出発点となっています。
 社会の恩、親や先祖の恩、生きとし生けるものの恩、師の恩、仏法僧の恩を忘れれば、仏道は歩めません。

 今日の守本尊普賢菩薩様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=rWEjdVZChl0



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 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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