コラム

 公開日: 2013-10-31  最終更新日: 2014-06-04

菩薩の慈悲と利他(なぜ、殺人を行えないか?) ─11月の聖語─

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。





 お大師様の言葉です。

「菩薩(ボサツ)の用心は、みな慈悲をもって本(モトイ)とし、利他をもって先とす。
 よくこの心に住して浅執(センシュウ…浅はかなこだわり)を破し、深教(ジンキョウ…深い教え)に入るは、利益(リヤク)もっとも広し」

(菩薩が心しているのは、慈悲を根本とし、何よりも、他を利することである。
 常にこの心構えをゆるがせにせず、我を先にしたいという執着心を去って、深いみ仏の教えに帰依するならば、最高に広い利益を得られることだろう)

 私たちはよく、ご利益(リヤク)といいますが、それは棚ぼたでもたらされるものではありません。
 すべては因果応報(インガオウホウ)の枠から出られず、み仏のご利益が欲しいならば、それにふさわしい生き方をせねばなりません。
 自分へよい果実をもたらすための方法は、まず他を思いやり、他のためになろうとすることです。
 そこに、目的へ向かう自分の精進(ショウジン)に加えて目に見えぬよき縁の力が生じ、仏神のご加護も加わって願いが成就します。

 さあ、〈ご利益にふさわしい生き方〉を考えてみましょう。
 仏法は「十善戒(ジュウゼンカイ)」を説き、殺生(セッショウ)などの悪行(アクギョウ)を戒めます。
 まずは、こうした悪行から離れなければ、いくら拝んでもどうにもなりません。
 そもそも、私たちはなぜ、憎い人を殺さないのでしょうか?
 あるいは殺せないのでしょうか?

1 殺すことが怖いから

 生きものを殺すのは恐ろしいものです。
 たとえアリ一匹をも、できれば踏みたくはありません。
 道路にネコの死体などがあれば、ほとんどの車は避けて通ります。
 たとえ死体でも、生きものはただのモノではないからです。

2 牢屋へ入りたくないから

 日本は世界有数の法治国家です。
 私たちは、悪事は露見する、犯罪者は逮捕され裁判にかけられ罰せられると信じられる健全な社会に住んでいます。
 だから、殺人は即、気ままに生きられる自分の日常生活を崩壊させると知っているので、歯止めになります。

3 殺生(セッショウ)はいけないという観念があるから

 人間としての戒めについてきちんと教えられながら育てられた人は、必ず、やってはならないことについての了解を心に抱いています。
 それは、理屈としてどうかというよりも、そういうものだと思って疑わないのです。
 やはり、霊性の核として仏性(ブッショウ)があり、ほとんど無前提な善悪の感覚というべきものが私たちには具わっているという気がしています。
 過去のカルマや育ちや生き方により、仏性を覆うあまりにも厚い反倫理的な甲羅をつくってしまわない限り、私たちのほとんどは、たとえ弱々しくても陽の当たる場所で社会生活を続けられるのです。

4 地獄へ行きたくないから

 究極のところで、死んだらまったくの無になるとしか思えなければ、倫理は成り立ちません。
 私たちは大昔から、直感的に死後の何かを感じとり、どのような文明においても死者を弔う儀礼が洗練されてきました。
 そして、多くの宗教が死後について説き、特にお釈迦様は、無限に続く因果関係を教えの根本に置かれました。
 だから私たちは、この世ではたらいた悪事は、死んだからといってチャラになりはしないと感じています。
 この感覚が地獄行きの行為を抑えてくれます。

5 自他を地獄へ堕としたくないから

 悪因が悪果を招く以上、自分の悪業(アクゴウ)は自分へ恐ろしい結果をもたらし、自分にとって大切な人々へも打撃を与えるに違いないと考えれば、悪事は行えません。
 しかも結果は今世(コンゼ)で出るか、来世(ライセ)で出るかわからず、悪事をはたらいた自覚がある以上、不安から逃れられません。
 不安にとり憑かれることそのものがすでに、罪に応じた罰の始まりです。

6 恐ろしい来世を避けたいから

 因果応報を深く信じれば、今世の行いはカルマとなって必ず来世に結果をもたらすと考え、地獄界や餓鬼界や畜生界などへ行かなくて済むように、人としての戒めを守ります。

7 来世でも人間修行を積みたいから

 人間界や天界への転生(テンショウ)ができれば、今の人間修行が来世でも続けられ、この世でやり残したことも引きつづき行って善き願いの達成へと向かうことができます。
 しかし、地獄界や畜生界に転生すれば、それは夢の又夢になってしまいます。
 たとえば年をとってからようやく何か、自分のすべてをかけて行いたいものが見つかったとしたら、どうでしょうか?
 この続きは来世でもやりたいと願いはしないでしょうか?
 9月11日に他界した元灘中・高校教師橋本武氏は、こう言いました。
 氏は「すぐ役立つことはすぐに役立たなくなる。本気でのめり込んだものは人生を豊かにする」との信念で、中学の三年間を通じて一冊の小説『銀の匙』に関する講義を続けました。

「生まれ変わっても国語教師として『銀の匙』の授業を続けたい。」

 志とはこういうものです。
 死ねば終わりといった程度ではありません。

8 相手も自分と同じ人間だから

 ここで、私たちは大きく飛躍します。
 自己中心から離れ、菩薩(ボサツ)の世界へ踏み込みます。
 自分がけけがえのない人生を歩んでいるのと同じく、すべての人々がそれぞれにかけがえのない人生を歩んでいます。
 そして、自分の心をよく観察してみれば、憎い相手が自分へ行った嫌なことを自分が相手へやらなかったのは、相手と自分がまるっきり別の生きものだからではなく、紙一重のところが違うだけだからであるということに気づくはずです。
 私は日々、事件のニュースと接するたびに、「ああ、自分はまだ、だいじょうぶ」と思い、被害者へお気の毒にと合掌すると同時に、加害者が哀れになります。
 自分の心のどこかに加害者の悪心へ通じるものが潜み、それは、諸条件によって抑制されているからに過ぎないからです。
 自分は紙一重のところで〈こちら側〉におり、加害者は紙一重のところで〈あちら側〉にいるだけなのです。
 自分が加害者であり、加害者が自分であっても何もおかしくはありません。
 今世では入れ替わりませんが、来世で入れ替わっても何の不思議もないのです。
 ──もしも、自分が出家していなかったなら……。
 ──もしも、彼に助言してくれるくれる人がいたなら……。

 誰しもがひとしく幸せを望み、不幸を避けたいと願っているのに、なかなか思い通りにはゆきません。
 自己中心の角(ツノ)を突きつけ合っているからです。
 不毛のぶつかり合いを避け、悪業を積まないために、自分も他人様も根本のところで〈同じ〉であるということを察知し、学び、想像し、一歩でも菩薩様へ近づきたいものです。
 こうした姿勢が、殺人などの悪行(アクギョウ)へ対する究極の歯止めになるのではないかと考えています。

 慈悲は「お前はそっち」と突き放さず、「貴方も私も同じ」と気づくところに生まれます。
 冒頭の教えにおける「慈悲」「利他」「菩薩」について考えてみました。

 今日の守本尊勢至菩薩様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=qp8h46u4Ja8


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 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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