コラム

 公開日: 2013-11-01  最終更新日: 2014-06-04

トラ(ネコ)と出会った話

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。





 晩秋のある日、早めに斎場へ着きました。
 遠い春に発した火照りの気配が幾分かは残っている穏やかな朝です。
 車から降りると、山を背負った斎場の奧からネコがゆっくり歩いてきます。
 40メートルほど遠くをゆっくり進むのは、まだ2サイか3才の茶トラです。
 思わず呼びかけました。
「トラ!トラ!」
 すると、か細い声で応えます。
「ニャー、ニャー」
 また、呼びます。
「トラ!トラ!」
 同じ声で返事をします。
「ニャー、ニャー」
 昔、ミケ子が産んだ白い仔猫を蔵王の麓まで届けたことを思い出しました。
 ボール箱へ入れられたネコが発するニャーにこちらもニャーと言い、ずっと独り暮らしのお爺さんの家まで木霊のようなやりとりが続いた夜道でした。

 入り口の近くでお柩の到着を待っている係のお姉さんが、ネコを横目で見ながら声だけをこちらへ向け、教えてくれました。
「朝になると、山から出てくるんですよ。
 誰が置いていったんだか……」
 やはり立って待つおじさんは顔を横へ向けてネコをはっきり見ながら、やや、憤りを含んだ声で言いました。
「ウチでも3匹、野良猫を飼っています。
 毎日、毎日、捨てられ、集められ、一週間経つと殺されるネコがたくさんいますが、どうして捨てるんでしょうかねえ。
 捨てるくらいなら、飼わない方が良いと思ってしまいます」

 ネコは二人の横を通って、まっすぐに、こちらへ近づいてきます。
 しゃがんでお迎えしました。
 お姉さんは大声で注意してくれました。
「住職さん、そばまでは来ても、身体は触れませんよ!」
 引っかかれるからご注意を、ということです。
 遠くからはこっちを見てるような気がしていたのに、近づいてきたネコの目はずっと下を向いたままで、決して目を合わせません。
 正座して意外なほど強い声で鳴く様子は、明らかに空腹を訴えています。
 車にエサはありません。
 やや、やせ気味のトラに「ごめんね、ないよ」と謝りました。
 トラはすぐ近くまで寄ってきても、手の届く範囲へは決して入りません。
 エサを諦め、毛繕いなどをしているトラが哀れになり、落ちていた長い草の葉でじゃらけさせてやろうとしました。
 仔猫なのに、トラは遊びません。
 いかにもうるさそうにしていましたが、すぐに堪忍袋の緒が切れ、やってくれました。
 ネコパンチです。
 強力なそれは、約15センチほどの葉を超え、私の指先まで届きました。
 人間の目を見られないトラ、遊べず、パンチを繰り出すしかないトラがいっそう哀れになりました。
「捨てられたばっかりになあ……」

 夏の真っ盛りにご葬儀をされたAさんが思い出されました。
 事情があり、半世紀前に子供たちと別れた母親が関東地方で孤独死し、戸籍を追って連絡してくれた後見人からご遺体を引き取り、お骨にして連れてこられたのです。
「おふくろと別れたのは、何しろ、私がまだ小さかった頃で、死に顔を見ても、ああ、こういう人だったんだなあ、と思える程度です。
 子供には、これまで一度も、おふくろの話をしたことがありません。
 でも、遺品の写真を見せて、これがお前のお祖母ちゃんだよ、と教えます」
 横ではお嫁さんが感極まった顔で、ハンカチを口元に当てておられます。
 夫婦と子供と3人だけのご葬儀は、厳粛なだけでなく、濃密なものが通い合う1時間となりました。

 人間はこうして、親と離れても人間として育ち、やがては親子の情愛を復活させもします。
 しかし、自然界へ入れられたネコは、人間社会にいるネコのような人間に対する親愛の情を保てません。
 トラは誰かにエサをもらい続ければ、いつの日か、その人の目を見られるようになるのでしょうか?
 ネコ好きのおじさんが発した怒りもわかりますが、人間には〈やむにやまれぬ〉事情が発生するものです。
 人生相談で、そうした方々の心の呻きをたくさん受けとめている私には、可愛いトラを捨てるしかなかった方の辛さが偲ばれ、苦い思いが胸に広がります。

「──トラや、……」
 寒いから住職も中へどうぞ、と心配してくださったお二人は建物へ入り、下を向いたままウロウロしたり立ち止まったりしているトラとしゃがんだ私の〈二人〉しかいない斎場前の駐車場は、途方もない広さに感じられました。

「のうまく さんまんだ ぼだなん あびらうんけん」※今日の守本尊大日如来様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=LEz1cSpCaXA


 ご関心のある方は当山のホームページ(http://hourakuji.net/)をご笑覧ください。
 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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