コラム

 公開日: 2013-11-11  最終更新日: 2014-06-04

第四十六回寺子屋『法楽館』「うつ病を克服する文明は?」(その1)

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。







 11月10日、恒例の芋煮会と一緒に開催した寺子屋には、これまでで最多の方々がご来山されました。
 当初の計画では「最近、心に残ったできごと」という題で、勇気づけられるできごとなどをお話し申しあげる予定でしたが、急遽、変更しました。
 それは、どうしても10月20日にNHKで放映された「うつ病 ~防衛本能がもたらす宿命~」についてのまとめをしておきたかったからです。

 この番組については、これまで5回にわたって書いていますが、その後も、うつ病の患者さんやご家族から人生相談を受け、ご加持を行っているうちに、現代人の宿命ともされているこの病気に社会全体が立ち向かうには、二つの方法があるという思いが日に日に高まっています。

1 うつ病発症の歴史

 5億2000万年前、人類の先祖である魚類は節足類を天敵とし、厳しい生存競争をくり広げていました。
 ここで、敵を察知すると脳の一部である扁桃体がはたらいてストレスホルモンを分泌し、全身の筋肉が活性化することによって敵から逃れるシステムができました。
 
 次いで、魚類からは虫類、そしてほ乳類へと進化をたどる過程において、人類は扁桃体のおかげで生き延びましたが、扁桃体は天敵以外にも反応するようになり、うつ病の新たな原因が生じました。
 仲間との絆がなければいきられない種となった人間は、孤立や孤独によって不安や恐怖がもたらされ、その結果、扁桃体が暴走してうつ病をもたらすのです。

 そして、およそ370万年前、アフリカのサバンナにいた人類は猛獣に襲われるようになり、生き延びるために、恐怖体験の記憶を海馬(カイバ)へ溜め込むようになりました。
 恐ろしい目に遭った場所などへは二度と近づかないなどの知恵をはたらかせて、ご先祖様方は生き延びられましたが、今度は、記憶がたくだん溜め込まれたため、実際は何でもないのに、何かのおりに思い出すだけで扁桃体が過剰にはたらき、ストレスを発生させるようになりました。
 東日本大震災で被災した建物などを遺して置くかどうかが長期間、真剣に検討され、あるいは遺し、あるいは処理するという苦渋の決断が相次いでいることの重さが実感されます。
 遺すことによって、目にするよみがえる記憶の辛さに耐えきれない方々がおられる一方、なくしてしまえば、歴史に学ぶための大切な資料を失ってしまうという危機感を感じる方々がおられるからです。

 さらに、およそ190万年前になると、人類の脳にはブローカ野(ヤ)という言語をつかさどる部位が生じ声を用いて情報を伝え合うようになりました。
 しかし、ここでも扁桃体が暴走する機会をまた一つ、増やしたのです。
 それは、他人から恐怖の体験について聞かされただけでも扁桃体が強く活動するようになったからです。

 想像力と言葉という人間のいわば聖性にかかわる二つの道具が、あらたにストレスを発生させ得るものとなりました。
 こうして私たちは、より高度な生きものへの歴史をたどってきましたが、それは同時に、うつ病発症の可能性を高める歴史でもありました。

2 豊かな生活と平等な生活

 魚も始終、天敵がそばにいれば、うつ病的状態になり、生命力が低下します。
 チンパンジーも一匹だけ隔離されれば、群れに戻っても仲間にとけ込めず、うつ病的状態になり、生命力が低下します。
 そして、思い出しても、聞いても、扁桃体が暴走して過剰なストレスが生まれ、うつ病になりかねない私たちは、なぜ、ここまで生き延びられたのでしょうか。
 また、なぜ現代に至って、急速にうつ病の罹患が増えたのでしょうか?
 
 生き延びられたのは、敵から身を守る知恵が発達し、同時に助け合い、危機から救い合ってもいたからであろうと思われます。
 辛い体験を思い出し胸が固まりそうになる時、あるいは恐ろしい話に身のすくむ時、自分で好きなことをしてそれを解消したり、あるいは仲間といる安心感がそこから救い出したりしてくれました。

 では、なぜ、急速にそうした救いが薄くなり、うつ病に苦しむ人々が増えたのか?
 それは、あまりに不平等感が強い社会になったからです。
 実験によれば、人は他人より少なく持っていればストレスを発生させ、他人より多く持っていてもストレスを発生させます。
 少なければ劣等感や怨念が生まれ、多ければ高慢心や無慈悲な心になります。
 持てるものが少なくても、多くてもストレスが生まれるという恐ろしい宿命的システム(煩悩が原因です)が強く刺激される不平等な社会になり、うつ病を防ぐ体制が追いつかなくなったのが実態ではないでしょうか。

 その証拠に、今でも狩猟生活を続けるハッザ族の人々は、うつ病とまったく無縁な暮らしをしています。
 彼らの証言です。
「朝起きたなら、それだけで幸せです」
「不眠の体験はありません」
「私は家族にとって価値のある人間です」
「どんなに空腹でも、獲物を独り占めすることはありません」
 その日、狩りで得たものを平等に分け、その日を生きる人々に不平等感はまったくありません。
 ストレスはなく、うつ病も又、ないのです。
 しかし、農耕を覚えた私たちは、同時に、収穫物を溜める者と溜めない、あるいは溜められない者とを分け、やがては物質的不平等、そして社会的権力の不平等をも拡大しつつここまで来ました。
 不安定な狩猟生活から安定的な農耕生活へと進み、より安全で豊かに暮らし、余暇で文化も深化させた一方、どんどん不平等社会へと突き進み、心への負担を高めて来たとは……。

 こと、ここに至り、私たちはもはや、ハッザ族のような生活へと時計の針を逆回しするわけにはゆきません。
 安心で豊かな生活と不平等感が引き起こすストレスの解消をどう両立させるか?

3 平等への努力

 もはや、モノの世界の平等は取り戻し得ません。
 ならば、まず、私たちのやるべきことは、せめて不平等感のより薄い社会にすることではないでしょうか。
 いわゆる格差の是正です。
 これを脇へ置いたままのいかなる施策も、私たちをうつ病の危険性から救うことはできません。
 いかなる医術の発達も、病気の生滅以上に救いとなることはあり得ないからです。
 安倍総理ご自身も、かつて、ストレスによる腸の病気を体験しておられるではありませんか。
 権力があればあったでストレスにより心も身体も壊れ、ない苦しみはもちろん大きなストレスとなり、心も身体も壊すのです。
 そして、権力や財力のある人々と、ない人々との間で、うつ病発症の確率がまったく異なるという厳然たる事実に目をつむったままの、いかなる理想社会もないのではないでしょうか。

 そして、私たち一人一人にできる〈平等の達成〉は、互いを思いやることです。
 誰一人、〈おかげさま〉と言うしかないこの生活空間のおかげで生きていない人はいません。
 すべての人が、得に言われぬ〈おかげさま〉のおかげで生きているならば、私たちにできることは、〈おかげさま〉へ感謝し、恩返しをし、〈おかげさま〉の存続に寄与することです。
 ではどうすればよいか?
 それは、〈おかげさま〉の顕れである身近な人や、生きとし生けるものや、社会や自然のために、できることを行うことです。
 感謝を伴うその行為はすべて〈させていただく〉のです。
 たとえば、介護をする人は、介護をしてやるのではなく、させていただく気持になって初めて、平等の達成へ寄与できます。
 してやるという気持には高慢心があり、知らぬ間にストレスを生んでいます。
 ありがたく、させていただくならば、ストレスはありません。
 介護を受ける人もそうです。
 お金を払ってやっているのだから気ままに命じるといった気持ではなりません。
 おかげさまで赤の他人へ手をかけていただき、生かしていただいているのだから、ありがたく支払いをさせていただくのです。
 互いに感謝し相手を思いやれば自然に〈おたがいさま〉の心が生じ、心の平等が現出します。
 私たちは、〈おかげさま〉と〈おやがいさま〉の心により、平等という人間として重要な維持機能を心に保持したまま、原理的に不平等なこの世を生きられるのです。

 社会的平等の是正と、各々の心の平等は、二つとも、達成可能な目標です。
 目標を共有し、文明病であるうつ病へ共に立ち向かおうではありませんか。

 今日の守本尊普賢菩薩様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=rWEjdVZChl0


 ご関心のある方は当山のホームページ(http://hourakuji.net/)をご笑覧ください。
 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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