コラム

 公開日: 2013-11-20  最終更新日: 2014-06-04

昭和初期の童話「燕と子供」を読みましょう(1)

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。





 菊池寛編集の「日本文藝童話集(上)初級用」から『燕と子供』(作:北村寿夫)を書き出しました。
 現代文にするなど、若干、手を加えました。
 親子で読み、子供が書いた感想文を親が添削し、もう一度書かせてみるといった用い方ができそうです。
 全文を掲載しておきます。
 


 ……燕はその小さい巣を、そこの煙突(エントツ)の上へかけたのです。
 高い高い赤いお屋根の上でした。
 けれど煙突(エントツ)の口には、黒い風おおいが、蓋(フタ)のようにくっついているので、燕の巣は風にも吹かれず、雨にも濡れずにおりました。
 かわいい巣は、その蓋(フタ)の蔭にありました。
「この下のお家は何だろう?」
 若い燕はよくこう思って、つるつるすべるお屋根の下へ降りていきました。
 そこからは、ちょっと軒先の桐の木にとまると、お家の中がはっきりと見えました。
「ここのお家は何だろう?」
 ちょうど、そこはお窓でした。
 いいお天気がつづくので、お部屋のお窓は、すっかり明いていて、すみの方に引かれている青いカーテンは、そよそよと漣(サザナミ)のように動いておりました。
 そのお部屋は小さい坊やのお部屋でありました。
「ねえ、坊や。」
と、坊やのお母さまは、よく、坊やの小さな、お寝臺(ネダイ)のそばへ腰かけて、やわらかい坊やの髪を、なでながら云いました。
「きょうは、何のお話をしてあげましょう? 
 赤い帽子のお話? 口をきいたお月さまのお話?」
「いいえ、お母さま、僕、もっともっと尊いお話がいいの、イエスさまだの、天のお使いの美しいお話だのがいいの……」
 やさしいお母さまは、ほほえんで小さくうなづきながら、いろいろの淸(キヨ)いうつくしい、けだかい物語をなさいました。
 白い翼(ツバサ)のある三人の天の子供や、その子供たちが、かわいそうな老人(トシヨリ)に、明るい望みの光を吹き入れてあげるお話、または目のない小さな鳩が、神様のやさしいお力で、たよたよと幸福な太陽のそばまで、飛んでいけたお話、そうしたいろいろの正しい、いとおしい、涙ぐましいほどの、愛にみちた物語りでありました。

 子供はまだ小さかったから、學校へも行きません。
 朝、あかるい日が靜かにさしている時も、また、うす緑の美しい月影の照る夕べも、桐の花のさいているお窓の近くで、お母さまからお話をきいているのが常でありました。
 小さい燕……ふとしたことから、ここのお屋根の上にすんでいる燕も、ときどき細い桐(キリ)の木にとまって、坊やのお母さまから、物語をきいたのであります。
 お母さまも子供も、この可愛らしい聴き人に気がついていたでしょうか。
 いいえ、すこしも知らないのでした。
 あるとき、お話の途中で、ふと、子供はこう云ったことがありました。
「ねえ、お母さま、そら、あの燕も坊やといっしょに、お話をきいていますよ。」
 お母さまは、子供の指す方へ目をあげて。紫の桐(キリ)の花がくれに、おとなしく止っている燕を見ました。
 が、すぐ、にっこりしてこう云いました。
「うそよ、坊や、燕はお腹でも痛いのでしょう。
 それとも、羽が疲れていて飛べないのかもしれないわ……」
 それっきり、その後はお母さまも子供も、この燕のことを、気にかけなかったのでありました。
 でも、燕はお母さまの云ったように、お話をきいていたのではなかったのでしょうか。
 聴いてはいても、お話がわからなかったでしょうか。

 いく月かたって、かわいそうに子供はご病気になりました。
 ひどいご病気でした。
 お医者さまは自転車にのって、一日に二度もきました。
 赤い薬や黄色いお薬が、子供の枕もとにならべられてありました。
「ねえ、お母さま、お話をして下さいよ。」
 子供は寂しそうにお寝臺(ネダイ)の上で云いました。
「僕、どうしても寝られないのよ。」
 お母さまは嬉しそうに、いつもお話をしてあげました。
 でも、あるとき、お母さまは看病のくたびれで、子供にお話をする勇気もなく、ぐったりと子供のそばで眠ってしまいました。
 子供はたいへん心寂しかった。
 でも小さい心に、疲れているお母さまを起すのは、お気の毒だと思いました。
 子供は光の弱い目をあげて、お窓から暮れていく靑白い空を、眺めたのであります。
 そこには緑いろの火のような小さい星が、薄い絹のような雲の底から、きらきらと暖かな優しい光をなげておりました。
「お星さま、きれいなお星さま……」
 じっと眺めていると、子供は自分の掌(テノヒラ)の中に、あの小さい星の玉を、握りしめてみたいと想いました。
 ほしいと思うと堪(タマ)らなくなりました。
「星!星がほしい。」
 子供は、こう叫びながら、そのとき、急に目をつぶって唸(ウ)めき出しました。
 お母さまが驚いて目をさましたとき、子供の病気はよっぽどわるく変わっておりました。
「星をおくれ。靑い星をおくれよう……」
 苦しい呼吸の中で、子供は何かにひかれているように、夢中になって叫びました。
 燕が、びっくりして巣を出たのもこのときです。
 桐の木に身をよせて、燕は目を大きくあけながら、お部屋の中を覗(ノゾ)きました。
 そして小さい灯影(ホカゲ)の下に、かわいそうな病気の子供を見出(ミイダ)したとき、病気の子供が苦しそうに叫(サケ)んでいる叫(サケ)びをきいたとき、燕は気の毒さに胸がいっぱいになりました。

 昔はこのように、母親が物語を聞かせてくれました。
 それは童話だったり、地方の伝承だったり、母親の創作だったりと、さまざまです。
 もちろん、子守歌代わりになる場合もありました。
 母親のぬくもりと一緒に与えられる言葉たちは、どんなにか幼子の想像力や優しさを増したか、はかり知れません。
 母親に事情があれば、祖父や祖母が代役を務めるのは当然でした。
 情操教育のスタートは、まさに家庭にありました。
 そして心の根が力を持ち、挨拶や箸の持ち方など、ふるまいの土台も固まった子供たちが小学校へ上がり、中学生になってゆきました。
 学級崩壊や陰湿ないじめなどがほとんどなかったのには、明らかな理由があったものと思われます。
 核家族化し、ますます忙しく、しかも格差の広がる世の中になり、いつ、だれが、どうやって幼子の〈生きる土台〉をつくるか、焦眉の急とは、このことではないでしょうか。

 今日の守本尊虚空蔵菩薩様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=IY7mdsDVBk8



 ご関心のある方は当山のホームページ(http://hourakuji.net/)をご笑覧ください。
 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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