コラム

 公開日: 2013-11-21  最終更新日: 2014-06-04

寺子屋の教え『実語教・童子教』を考える(その64)─家族を生かすための戦い─

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。




〈『法楽農園』の守本尊様へ、亡き母親の菩提を弔うための石碑が建立されました〉

 寺子屋などで江戸時代まで用いられていた『実語教・童子教』を読んでいます。

「朝(アシタ)には山野に交わって
蹄(ヒヅメ)を殺して妻子を養い 
暮(ユウベ)には江海(コウカイ)に臨んで
鱗(ウロクヅ)を漁(スナド)つて身命(シンミョウ)を資(タス)け  
旦暮(タンボ)の命(ミョウ)を資(タス)からん為(タメ)に
日夜(ニチヤ)悪業(アクゴウ)を造り
朝夕(アサユウ)の味を嗜(タシ)まん為(タメ)に
多劫(タコウ)地獄(ジゴク)に堕(オ)つ」
 
 母親が乳を与え、幼子の世話をしているうちに、父親は外で生きる糧を得るために奮闘しています。
 朝には山野へ分け入り、けだものを捕まえてきて妻子へ与えます。
 夕方になると深い海へでかけて魚を獲り、家族の身体を養います。
 朝から夜までずっと続いているいのちを永らえるために、日夜にわたって殺生(セッショウ)の悪業(アクゴウ)をつくり、三度の食事を得ようとしては、長い間、殺生の報いとして地獄に堕ちていなければならないのです。

 農耕や狩猟といった第一次産業で生きていた時代には、生きものを獲るという実感のある毎日でした。
 殺生は罪であるという仏教の教えを知っていながらも、獣や魚を獲り、血を流させながら切り刻んで家族へ食べさせました。
 もちろん、娑婆の方々が生きるために必要な範囲で行う殺生は戒律に反しませんが、それでも昔の人々は、「たとえ自分は地獄に堕ちようと、何としても家族を養うのだ」という強い気持を持っていました。
 こうした責務と罪の間で食糧を得る生活には、おのづから、節度ある態度も伴っていました。
 〈自分だけ〉という仲間を忘れたあさましさも、〈もっともっと〉と無限に得ようとする恥知らずなあさましさも抑えられていました。
 だから共同社会が成り立ち、いのちが循環する自然環境は守られこそすれ、破壊はされませんでした。
 ただし、農耕技術などの発達は、生活の安定と同時に貧富の差を生み、富む者にも貧しい者にもストレスを発生させ、やがては現代人特有のうつ病が発症しやすい精神的環境をももたらしたという面は忘れず、格差是正と自然の回復に励みたいものです。

 家族を養う者が責務と罪の間にあるという構造は、現代にも通じるものがあります。
 何次産業であろうと、仕事の現場は常に戦場です。
 自分の怠け心と戦い、行く道を阻もうとするものと戦い、時には同僚と競います。
 その中で、たとえ殺したり盗んだりはせずとも、おべんちゃらを口にしたり、二枚舌を用いたり、高圧的な言葉で意志を通そうとしたり、あるいは、ままならぬ状況で忿怒の思いに駆られたりするかも知れません。
 また、自分の子供には見劣りのしない服装をさせたり、流行のオモチャをいち早く買ってやりたいなどとも願うものです。
 家族を生かすため、よりよい生活をさせたいため、違法ではないまでも十善戒に触れかねない行動を余儀なくされる場面は多々あり、人間としての戒めや矜恃などを感ずる戦士は歯をくしばり、あるいは目をつむりつつ戦っています。

 浅田次郎の歴史小説に『壬生義士伝(ミブギシデン)』があります。
 南部地方 (岩手県)盛岡藩の脱藩浪士で新選組隊士となった吉村貫一郎は、仕送りで郷里の家族を養おうと、功労あるはたらきをするたびに報酬を求めます。
 金銭や食事にこだわらず、「武士は食わねど高楊枝(タカヨウジ)」とやせ我慢をしていた時代なので、仲間から、図抜けた剣の冴えにそぐわない態度を軽蔑されもしましたが、最後は勝ち目のない戦いに突っこんで行きました。
『新撰組隊士吉村貫一郎、徳川の殿軍(デングン)ばお務め申っす。
 一天万葉(イッテンバンヨウ)の天皇様に弓引くつもりはこざらねども、拙者は義のために戦(イクサ)ばせねばなり申さん。
 お相手いたす』
 自分のための自分のいのちなどは、はなから捨てて生きていたのです。
 家族を食わせるために生きていた自分が、生き延びるために義を捨てるかどうかという岐路に立った時、やはり、自分のための自分のいのちなどにはこだわらず、義のために突撃しました。
 家族を〈養う者〉が引き裂かれる現実を深く考えさせられました。

 日本で行われているお盆の由来となった目連尊者(モクレンソンジャ)の母親も、引き裂かれた一人です。
 ある日、出家した息子目連が托鉢に歩いているのを見た母親は、我が子可愛さに、他の行者へは施さず、目連の鉢にだけたくさんの食べものを盛りつけ、死後、相手を選ばず無心に行うべき布施(フセ)行を誤った罪により、餓鬼界へ堕ちました。
 天眼(テンゲン)という神通力によってそれを知った息子目連は、師であるお釈迦様の指導で救いだし、行者がうち揃って地獄界や餓鬼界や畜生界から亡者を救い出す修法を行うという行事が始まったとされています。
 自分を育て、見守ってくれていた母親が餓鬼界で飢えと渇きに悶えていたことを知った時の悲しみ、そして、その原因が子供可愛さにあったことを知った時の切なさ、そして、自分一人では救いようのないことを知った時の苦しみ……。
 目連尊者の心は察するに余りあります。
 作法を知っていたにもかかわらず我が子の鉢にだけ食べものを盛らないではいられなかった母親。
 苦しみつつ救済の修法を行った目連尊者。
 そして、修法を伝えたお釈迦様。
 こうした方々のおかげでお盆に施餓鬼(セガキ)の修法が行われ、御霊方と私たちの安心がもたらされていることを考えると、人は引き裂かれつつ霊性を高めているという気がします。

 いずれにせよ、子供を育てため、生かすためのまっとうで真剣な戦いが父親により、母親により日夜、行われていることをはっきりと認識したいものです。
 長寿社会になった日本では、親を生かし、守るための戦いも、子供によって行われるようになりました。
 ──いかに、まっとうに生かし、生きるか。
 いつの時代も実に厳粛なものです。

 今日の守本尊文殊菩薩様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=WCO8x2q3oeM



 ご関心のある方は当山のホームページ(http://hourakuji.net/)をご笑覧ください。
 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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