コラム

 公開日: 2013-11-26  最終更新日: 2014-06-04

出産前の染色体検査に思う ─どうにかできるもの、どうにもならぬもの─

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。





〈河北新報さんよりお借りして加工しました〉

 11月23日付の河北新報は、出生前診断において、異常が確定した親の56人中53人が中絶を選んだと報道した。

 妊婦の血液で胎児の染色体異常を調べる新出生前診断を実施している病院のグループは22日、診断の実施件数はことし4月の開始から6カ月間で3514人に上ったと、仙台市で開催中の日本人類遺伝学会で発表した。
 染色体異常の可能性がある「陽性」と判定後に羊水検査で異常が確定したのは56人で、うち53人が中絶を選択した。
 ほかに、陽性判定後、確定検査前に中絶した人も「ごく少数いる」という。
 開始から3カ月時点の受診は1534人で、産婦人科の現場で急速に拡大している実態が示された。
 命の選別につながる恐れがあるとの指摘があり、安易な実施がないか厳しい検証が必要だ。
 グループによると、4~9月に全国の25施設が実施。
 検査の理由は、出産時に35才以上が目安となる高齢妊娠が94・2パーセントと大半を占め、染色体異常の妊娠歴が2・4パーセント、超音波検査で異常の可能性が高いと指摘された人が1・4パーセントなどだった。
 陽性と判定された67人のうち、62人が確定検査である羊水検査を受け、56人でダウン症など3種類の染色体異常が判明した。
「陽性」と判定され、確定検査で異常がないと分かった人が6人いたことになる。
 診断で陰性と判定された67人のうち、実際には染色体異常だった「儀陰性」が1人あったとの報告があり、詳しく調べている。
 受診前に遺伝カウンセリングを受けて新出生前診断を取りやめた人も168人いた。
 中絶を選択した理由は「染色体異常の子供を産み育てる自信がない」と「将来設計に不安がある」がともに21パーセントとなるなど、将来への不安が多かった。
 ほかに「赤ちゃんの状態の見通しがよくない」が37パーセントなどだった。

 染色体に異常がある赤ちゃんが0・16パーセントあったという数値自体は、多くの第三者は「そんなものか」という感じで受けとめるかも知れない。
 しかし、陽性が確定した妊婦一人一人にとっては、あまりにも重すぎる通告だったことだろう。
 宗教的観点を離れれば、実に95パーセントの方々が中絶を選んだことは理解できそうだ。
 むしろ、5パーセントの方々がどう考えて出産を選んだのか、そして、出産後の家族はどのように生きているのかを知りたい。
 また、「受診前に遺伝カウンセリングを受けて新出生前診断を取りやめた」168人の方々は、どう考えて診断を避けたのだろうか。
 もちろん、科学がここまで発達してこなければ、こうした岐路に立つことはなかった。
 無事に産むか、産まれるかの前に、どういう子供を産むか、あるいは産まないかの選択が迫られるとは……。

 なお、この件に関し、中日メディカルサイト「つなごう医療」には、以下の記事もある。

「子どもを残して死ぬ不安がある、きょうだいへの負担が増大する」が17%、「経済的な不安がある」は4%だった。
 新出生前診断で胎児がダウン症の陽性と判定された妊婦の平均年齢は40.1歳だった。
 日本ダウン症協会の玉井邦夫代表理事は「障害がある子が世の中でどう生きているかを知ることで、親になるイメージも持てるし、不安も変わると思う。出生前診断の際のカウンセリングだけでなく、学校教育や社会教育も必要だ」と話している。

 今後も私たちは、より幸福を求め、よき未来を目指し、工夫をこらして進む。
 そうした中で、肉体的、精神的に大きな生活上の困難を抱えて誕生した人へ手篤い支えを提供する一方、困難を抱えた誕生そのものコントロールしたいという欲望が薄れることはないと思う。
 そう遠くない未来に、より〈優れた子〉を選んで産む時代になることだろう。
 胎内の赤ちゃんは病気になる確率だけでなく、知能指数や身体能力など無数の要素が科学的に把握され、親の判断で選別されることだろう。
 科学の発達にともない、選別欲もまた、無限に拡大してゆくことだろう。

 宗教者としては二つの不安がある。

 一つは、アリの社会などに見るとおり、直接的に社会へ大きく貢献する存在しか許されなければ、社会は成り立たないのではないかという点である。
 全員がすばらしい知能と肉体を持った人間になればすばらしい社会をつくれるというのは、きっと幻想に違いない。
 モヘンジョダロやハラッパなどの遺跡でわかるとおり、お釈迦様がお生まれになられる千年ほど前、インドには高度な文明があり、平和な社会が営まれていた。
 しかし、侵入したアーリア人は先住のドラヴィダ人を駆逐し、賤民として人間扱いしない社会をつくった。
 厳しいカースト制度の最下層である奴隷的身分の人々も、まだ〈人間扱い〉されるが、賤民は、虫けら同然の扱いとなった。
 お釈迦様はそうした社会の上層階級にありながら、「人は生まれによるのではなく、生き方によって尊さが決まり、転生する先も決まる」と説かれた。
 現代にあっても、漢民族の侵略を受けたチベットでは、それまでに存在しなかった物乞いが生まれた。
 中国語を話さなければ、社会人として立場を固めつつ生きることはできない。
 チベット人の窮状をとらえた数々の映像は、2500年経とうと、人間のやることはあまり変わらない、すなわち人間はそう変わりはしないという事実を突きつけてくる。
 中華思想や共産主義を奉じる人々だけが優れており、すばらしい社会をつくれるなどというはずはないのである。
 もしも、〈優れた人〉しかいない社会になったなら、鋭い剣で渡り合う凄まじい競争と、嫉妬や憎悪や高慢心などが支配する血しぶきにまみれた社会になるのではないか。
 思いやりはどこに成り立とうか?
 どうしても、平和が訪れるとは想像できない。

 もう一つの不安は、人間の限界を忘れ、私たちの存在を〈超えたもの〉への畏怖を忘れることである。
 あれほど政権からも電力会社からも学会からも科学的安全が保証され、立地している地域では「何かあったなら原発へ逃げ込め」とまで言われていた原発がとてつもない事故を起こしたにもかかわらず、畏怖を非科学的と排し、まったく同じパターンで次を目ざしている私たちの文明は危ういところにいるのではなかろうか?
 クローン人間の製造はどうやら食い止めているが、ロボットに戦争を任せつつある私たちは、クローン人間に戦争をやらせるところまで、あと半歩しかないところに立っている。
 それと気づかれぬうちに誰かが半歩前へ行けば、人間社会の様相は一変することだろう。
 私たちは、やはり、〈ゆでカエル〉になるしかないのだろうか。
 風呂に入れられたカエルは、致死の温度になっても気づかないという。
 過去の華々しい文明が遺跡となってしまった経緯には、畏怖の忘却があったのではなかろうか。

 欲の危険な拡大を抑えるものは、精神と肉体と科学的知見を道具として用いる智慧である。
 道具の性能を上げるだけでは危険である。
 ある時、家族葬と会社葬を選択する緊迫した場面に立ち会った。
 故人が望んでいた家族葬が社会的要請によって難しくなった際、お子さんの一人が遺された伴侶へ静かに語りかけた言葉は忘れられない。
「私も家族葬を望んでいたことをよく知っているし、お母さんが何としてもそうしてあげたいと思う気持もよくわかる。
 私だってそうよ。
 しかし、お父さんは私たちの家族だけでなく、社会にお世話になって生きた社会人の一人でもあるのよ。
 ──そしてね……。
 この世には、どうしても思い通りにならないことってあるのよ」
 ぎりぎりの場面ではたらくこうした智慧は、理論や法律や自分の気持を第一にする考え方などからはでてこない。
 人間も社会も思い通りにならない存在であることを深くふまえた智慧が最後の歯止めになるのではなかろうか。

「のうまく さんまんだ ぼだなん あびらうんけん」※今日の守本尊大日如来様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=LEz1cSpCaXA


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 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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