コラム

 公開日: 2014-01-22  最終更新日: 2014-06-04

【現代の偉人伝】第184話 ─森と動物と人間を考える酪農家中洞正氏─ 

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。





 平成26年1月20日付の河北新報に酪農家中洞正氏(61才)の『獣害を考える 森林政策改める契機に』が掲載された。
 サルやクマなどによる獣害が発生すると、その動物を駆除するしかないが、戦後の「拡大造林」と、その後の放置並びに無定見な開発を見直さねば根本的な解決はないという指摘である。

 以下、全文を掲載する。

「全国各地で獣害が発生している。
 今までのように山村など民家の少ない限定された地域だけでなく市街地にも出没して、町の中ででサルやイノシシ、クマなどの野生動物捕獲劇が新聞、テレビで報じられている。
 宮古市田老地区のある民家では、ツキノワグマが入り込み、仏壇に供えてあったまんじゅうを食べていたという。」

 かつては宮床銀座と称されていた地域から車で1分もかからないあたりに位置する当山の境内地でも大型動物の足跡が見られ、隣家ではクマに柿を食べられている。
 隣接する中学校付近でもクマがたびたび目撃され、その都度、役場の担当部署は大騒ぎになる。

「このような獣害の対策として捕獲された野生動物のほとんどはハンターによって射殺されている。
 ツキノワグマは年間に5000頭以上が射殺されているという。
 それでも被害が減らないためハンターの増員が叫ばれているが、ハンターの増員による駆除は安直な発想である。
 現に今よりハンターの数が少なかった昭和30年代前半でも、獣害被害は軽微なものであった。」

 当山が進めている『みやぎ四国八十八か所巡り道場』のある仙台市泉区福岡は、マタギの里だった。
 春から秋にかけては農業を営み、冬場に熊や鹿などを獲った。
 その当時の獲物は決して人間社会にとっての〈邪魔もの〉ではなく、自然という神からの贈りものだった。
 ウィキベディアは記している。
「厳しい雪山の自然に立ち向かってきたマタギには、『山は山の神が支配する場所、そして熊は山の神からの授かり物』『猟に入る前には水垢離(みずごり)を行う』など独特の信仰を持ち、獲物をしとめたときなどには特別の呪文を唱えるという。」
 人間は稲に感謝し、熊に感謝しながら暮らしていた。
 旱(ヒデリ)があるように熊に襲われもしたが、恵みも害も自然のなせるわざであり、人間は獣と共存するというよりもむしろ、一体となって一つの世界を生きていた。

「この獣害の根本は、前後間もなく行われた『拡大造林』と呼ばれる森林政策に起因している。
 これは広葉樹林を針葉樹林に植え替え、用材に適した木材生産を行うための森林政策であった。
 その面積は日本国内の森林面積の40パーセントを占める1000万ヘクタールにも及んだ。」

「しかし、木材の輸入増加で対外競争力に負けた国産材は伐採して販売しても赤字になり、針葉樹林が放置されたのである。
 放置された針葉樹林は、間伐や枝打ちが行われないために林床に太陽光線が届かなくなり、下草と呼ばれる多様な植物や広葉樹などが駆逐される。
 針葉樹のみの単層的植生となって。ドングリやクルミ、クリといった木の実、ノイチゴ、ヤマブドウなどの野生動物の餌が激減した。」

「その一方、民家に近い里山は昭和30年当初から始まった『燃料革命』と言われた化石燃料の急激な普及により、薪炭林の役目を剥奪された。
 野性動物と人間の共存していた里山が放置され、やぶ化して、餌の少なくなった奥山から追い出された野生動物の格好のすみかとなったのである。」

「里山の近くには田畑があり、稲やトウモロコシなどの農作物、リンゴや柿などの果物がたわわに実っている。
 また、無造作に食品の残りかすが捨てられていることろもある。
 それらは野生動物にとっては、この上ない餌である。
 このように獣害の基本的問題は人間側にあることは言をまたない。」

 平成4年、兵庫県尼崎市立武庫東中学校で起こった「クマ守れ」の運動は一般財団法人『日本熊森協会』となって結実し、今日に至っている。
 協会が明示する「基本的な考え方」の最後《他生物の命を尊重するやさしい心が、自然を守ります》にはこう記されている。
「自然保護の原点は、自分以外のもののことも考え、共に生きていこうとするやさしい心です。
 どれだけ、知識や技術があっても、それだけでは自然を守ることは できません。
 知識や技術だけでは、自己のみのことを考え、他のものを犠牲にして突き進もうとする欲望を抑えきれないからです。
『かわいそう』という気持ちのみでは自然保護はできませんが、自然や他生物を尊重する心のない人にも、やはり自然保護はできません。」
 獣は人間生活の害となるから駆除しろ、追い払え、というだけでは問題が解決できない一方、可哀想だから保護しようというだけでも、問題の根本解決はできない。
 共生という思いやる心をスタートとし、森全体、地域全体、日本全体、地球全体、宇宙全体を考える智慧をはたらかせ、信念を持って行動するしかない。

「森林保全は獣害問題解決の鍵であるだけでなく、地球温暖化の原因となっている二酸化炭素対策、水源保持、緑のダムとしての効用、そして田畑を潤し豊穣(ホウジョウ)の海を守るなど、地球環境の基本である。
 人間のみならずすべての動植物が生きる上での源泉となっている。」

「このように森林問題は、国策による対応が欠かせないのである。
 工業大国として知られるドイツの森林面積は日本の約40パーセントの1000万ヘクタールしかないにもかかわらず、木材関連業者の従事者は100万人で自動車産業の77万人を大きく上回っているという。
 いち早く原発ゼロ宣言をし、環境問題を重視しているドイツという国の方針が明確に表れている数字と言えるのではないだろうか。」

 獣害問題は森林問題であり、環境問題であり、文明の問題である。
 弱肉強食の自由な経済原理だけに任せ放置してはおけない国策の問題である。
 島国の日本とは国の立地条件が大きく異なるとはいえ、かつて脱原発を国策と決したドイツでは、日本の原発事故の後、やや原発へ回帰しようとしていた流れを元へ戻し、2022年までに当初の予定通り国内すべての原発を閉鎖する予定である。

「片や倍以上の森林面積を有するわが国の林業従事者はたったの5万人余りであり、そのほとんどが60歳以上の高齢者である。
 獣害問題を契機に日本の森林政策を改めなければ、後世に禍根を残すことは間違いない。」

 ドイツも日本も、森の国である。
 梅原猛著『「森の思想』が人類を救う』によれば、森の文明には二つの特徴がある。
 一つは〈平等原理〉である。
 人間と動物と植物と山と川は、共に生きるしか在りようのない平等な存在である。
 もう一つは〈循環思想〉である。
 死と再生の繰り返しが自然の中で行われており、この世でのはたらきを終えた人間も熊も栗の樹も、再生の時を無事、迎えられるよう丁重に弔われる。
 やがて誕生した嬰児は時としてお祖父ちゃんの生まれ変わりと感じられ、捕獲された熊も採取された栗の実も、一旦見えない世界へ戻っていった霊が再生し、恵みになってくれたと感謝される。

 平等と循環は当然、海をも包含する。
 東日本大震災で途方もない被害をこうむった宮城県気仙沼市に平成21年以来、活動を続けているNPO法人『森は海の恋人』がある。
「東日本大震災以降、地域の状況は一変しました。
 巨大津波の直後、生き物は消え、海は死んだものと皆が思いました。
 しかし今、多くの生き物たちが大変な勢いで戻り始めています。
 こうした生き物の力強さと、全国の皆様からのご支援に支えられ、NPO法人森は海の恋人は事業を再開することができました。
 わずかばかりではありますが、体験学習も少しづつ再開しています。
 あれほどの被害からも立ち直ることのできる生き物たちの強さと尊さを子ども達に伝えるとともに、地域の方たちと協力し、多くの専門家のご協力を得ながら、新たな地域づくりにも取り組んでいきたいと考えています。」

 森を、里を、海を、そして原発をその〈存在〉から考え、日本の文明の方向をよく考えねばならないのではなかろうか。

 今日の守本尊普賢菩薩様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=rWEjdVZChl0



 ご関心のある方は当山のホームページ(http://hourakuji.net/)をご笑覧ください。
 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。!==㲮

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