コラム

 公開日: 2014-01-28  最終更新日: 2014-06-04

子供を不幸にする方法 ─ルソーとテルマエ・ロマエのヤマザキマリ氏に思う─

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。




〈ヤマザキマリ氏のご主人ベッピーノ氏。『男性論』からお借りして加工しました〉

 古い資料の中から、鉛筆書きしたメモが見つかった。 
 今からおよそ250年前、フランスで活躍した哲学書ジャン=ジャック・ルソーが書いた『エミール』からの抜粋である。

「あなた方は、子供を不幸にする一番確実な方法は何であるかご存じだろうか。
 それは、何でも手に入れるという習慣を子供につけることだ」

 不幸は、〈手に入らない〉ところに生ずる。
 たとえば、欲しい自転車があるのに、貧乏な家なので、買ってもらえない。
 隣家の子は売り出されてすぐ、乗り回しているのに、ウチでは1年待ってもまだ、買ってくれない。
 手に入れた人との比較〝どうして自分は……〟が、不満を募らせ、不幸という名の欠乏感を膨らませる。

 では、〈ないから不幸〉なのであれば、〈何でもあれば幸福〉か?
 理屈上はこうなるが、一生、何にも不自由しない、つまり欲が満たされない、言い換えれば、〈思い通りにならないことは何もない人〉はいるのだろうか?

 決して、いない。
 お釈迦様が説かれたとおり、生まれる時点で、すでに、生きるか死ぬかのところを通らねばならない。
 老いて若さを失わない人はいないし、病気になって健康を失わない人もいないし、死んでいのちを失わない人もいない。
 また、愛する人やペットやモノとの別れが来ない人はいない。
 怨み憎まないではいられない人とめぐり会わない人もいない。
 不老長寿の薬を手に入れる人や、地上の富を独占する人や、空の星を手に入れる人もいない。
 見える目や話せる口があるために悩みや苦しみが発生し、スピードの出る車や電車があるために事故が起こり、ネットが発達したばかりに犯罪や不道徳行為が蔓延し、〈有るがゆえの苦しみ〉がない世に暮らす人もいない。
 お釈迦様が説かれたとおり、〈ままならぬ〉四苦八苦から誰も逃れられない。

 だから、冒頭の箴言(シンゲン)は、こうも言い換えられる。

「子供を不幸にしたいのなら、生まれなかったことを望ませなさい。
 子供を不幸にしたいもなら、老いないことを望ませなさい。
 子供を不幸にしたいのなら、病気に罹らないことを望ませなさい。
 子供を不幸にしたいのなら、死なないことを望ませなさい。
 子供を不幸にしたいのなら、好きな人や生きものやモノやものごとを手放さないように望ませなさい。
 子供を不幸にしたいのなら、気に入らない人や憎い人などと出会わないように望ませなさい。
 子供を不幸にしたいのなら、手に入れてはいけないものや、決して手に入らないものまでをも欲しがらせなさい。
 子供を不幸にしたいのなら、見るもの、聞くもの、触れるもの、食べるものに動かされるがままに生きさせなさい。」

 このとおりに育てれば必ず不幸になるだろう。
 叶わない望みを持つからである。
 しかし、振り返ってみれば、私たちはほとんど無意識の裡に、叶わぬ望みを持ちながら生きている。
 
 テルマエ・ロマエの作者ヤマザキマリ氏は、著書『男性論』においてアンチエイジングの狂騒へ警鐘を鳴らす。

「年を取らないと表れてこない美しさ、つまり成熟の美という概念があるということは忘れてはいけないと思うのです。
 時間の経過を恐れすぎるのではなく、時間との調和がとれているひとこそ最強です。」
「年を取ると男性にちやほやされなくなるからと、外見のアンチ・エイジングに躍起になるぐらいなが、年を取って、年相応のしわがあるのにちやほやされている知的でチャーミングな女性たちこそ、お手本にしてほしい。
 たとえそれが、ごく少数の女性であったとしても。
 そんなひとはたしかに存在するのですから。
 とにかく、妻候補や浮気相手というセクシュアリティを要に女性を見ている。
 そんな男性の評価だけが女性の美の価値観であってはいけないと思います。
 それを念頭に置きさえすれば、もっと女性である以前の、人間としての人生が楽しくなるのではないでしょうか。」

 年を取り、若さが失われていってなお、人生が楽しくなる。
 それは、必ず失われてゆくものを〈追わない〉からである。
 氏はそれを「時間との調和がとれている」と言う。
 ここには智慧のはたらきがある。
 智慧がなければ「時間の経過を恐れすぎる」。
 そして、死ぬまで、決して、この恐怖からは逃れきれない。
 智慧のあるなしで、追われる人生と楽しい人生に分かれる。

 ちなみに、ヤマザキマリ氏は14歳年下のイタリア人学者一家と暮らし、「結婚生活というものは、簡単ではないです。断言しておきましょう。まったく簡単ではない」と告白しつつ、このゆとりである。
 最近、72歳になるAさんからいただいた手紙である。
「~病弱な私がこの年まで生きてこられて感謝をしています。
 ~私も母のようにしたたかに優しく生きたいと願っています。
 ~今の時間がいつまで残っているかわかりませんが、一日一日を大切に感謝して暮らしたいです。
 春の猫 一番星に集まる」

 もう一度、冒頭の箴言を言い換えてみよう。
「子供を不幸にしない方法は、手に入らないものを見分け、動じない習慣をつけさせることだ」
 ここまで読まれた方はもう、お気づきだろうが、これは、恐ろしいことに、子供たちだけにとって必要な習慣ではない。
 私たちが一生かけてやらねばならない習慣づけではなかろうか。
 智慧を磨きつつ……。

 この際、もういくつか、エミールからのメモを残しておきたい。

「人間における最も危険な時期は、出生から12歳までの間だ。
 それは誤謬と悪徳が芽生える時でありながら、まだそれを破壊するための手段を一切、持っていない時期なのである」

「最初の教育は純粋に消極的でなければならない。
 それは、美徳を教えることでも、真実を教えることでもなく、心を悪徳から、精神を誤謬から守ることである」

「最も幸福な人とは、一番苦しみをなめることの少ない人だ。
 最も不幸な人とは、一番楽しみを味わうことの少ない人だ。
 いつも苦しみの方が楽しみより多い。
 この差引勘定は全ての人に共通である。
 従って、この世の人間の幸福は消極的な状態に過ぎない。
 それは、人間の味わう不幸の最少量によって計られるべきものだ」

「我々の欲望と、我々の能力との不均衡にこそ我々の不幸は存するのである」

「人間のような儚い存在が、あんなにまれにしかやってこない未来をたえず遠くに眺めて、自分の確実に把握している現在をおろそかにするとは、何という困った癖を持ったことか」

 今日の守本尊阿弥陀如来様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=4OCvhacDR7Y



 ご関心のある方は当山のホームページ(http://hourakuji.net/)をご笑覧ください。
 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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