コラム

 公開日: 2014-03-12  最終更新日: 2014-06-04

未完のページを心で読む ─東北関東大震災・被災の記(第149回)─

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。





 3月11日、午前10時より午後1時をまわるまで般若心経百八返を捧げ続ける供養会は、無事、終わりました。
 全国の方々へ合計百万巻にしましょうと呼びかけましたが、ご唱和いただけたでしょうか。
 修法後、少々、法話を行いました。

「こうした供養とはいかなるものでしょうか。
 作家吉村昭氏は、『作家は未完の一ページを残してこの世を去る』と言いました。
 よほど恵まれ、心の座った方なら、何の思いも遺さずにこの世を去るかも知れませんが、多くの方々は、吉村氏ならずとも〈未完〉の思いを持って旅立たれるのではないでしょうか。
 よく「無念」と言います。
 この言葉どおりであれば、『念が無い』はずですが、実際は、どうしても心から離れない思いがある場合に『無念である』と言います。
 それは、スルメをアタリメと言い換え、死んだ日をいのちの日、すなわち命日と言い換える文化に通じる心遣いなのでしょう。
 
 さて、大震災から三年が経ち、大震災の影響で関連死された方の数は、大震災によって直接亡くなられた方を上回る状況となりました。
 今なお、そうした方々は増え続けています。
 私たちの行う供養は、皆さんが書き尽くせなかった心の一ページへとつながることでしょう。
 そして、無念という〈あの世へ引きずる〉心は、いくばくかでも晴れ、あの世へ暖かな光が射すことでしょう。

 NHKドラマ『ごちそうさん』には、白い米で炊いたご飯をありがたくいただく場面がたびたび出て来ます。
 現代に生きる私たちは、何の気なしに銀舎利(ギンシャリ)を口にしますが、戦争で空襲に遭った地域や戦場そのものでは、それがなかなか叶いません。
 先月、まだ御遺骨や遺品の発掘が終わらないまま酷く崩れた沖縄の洞窟で、御英霊へ銀舎利を捧げてご供養しました。
 同志の紅一点であるAさんが、途中のコンビニでご飯を買い、温めてもらいました。
 それを小さな仏飯器へ盛りつける時、彼女は周囲へ訊きました。
 『女性が手をかけてよろしいのでしょうか?』
 即座にお答えしました。
 『母たる性の女性が手がけてくだされば、それはきっと、御英霊にとって、自分の母親が盛りつけてくれたご飯になることでしょう。
 これ以上の供養はありません。
 ぜひ、お願いします』
 もはや、食糧も弾薬も乏しく、あるいは尽きた洞窟の奧で玉砕の時を待つ方々の胸中に何があったのかは、わかりません。
 確かなのは、家庭の食卓に並ぶご飯がなかったことです。
 だから、温かな銀舎利のご供養はきっと、御英霊の無念の一部を晴らしたものと信じています。

 私たちは、一人残らず戦争における生き残りか、その血を継ぐ者であり、震災と原発事故における生き残りです。
 いのちがつながってきた存在です。
 申しあげるまでもなく、私たちにできることは、逝かれた方々が遺された思いを忖度(ソンタク)しつつ、手を合わせることです。
 そして、御霊へ恥ずかしくない生き方をし、もって、御霊へ恥ずかしくない世の中をつくりたいものです。
 今日、ここで皆さんの胸中に動いたまごころはきっと、そのための大きな力となることでしょう。
 まことにありがとうございました。」

 3月9日、河北新報へ「『自然』に命見る日本人」という一文が掲載されました。
 栗原市のご住職佐藤澄隆氏は、その中で書きました。
「卒塔婆(ソトウバ)に記す風火水地の文字は、発電エネルギーの風力、火力、水力、地熱と見事な対称を示しているではないだろうか。」
 まったく同感です。
 当山が有効利用を目指している温泉「七ツ森の湯」は、もしも温度が充分でない場合、卒塔婆に書く「空」の文字に通じる太陽光発電でやれないものかと思案しています。
 お大師様は、卒塔婆の表へ梵字(ボンジ)で書く地・水・火・風・空の5つに加え、裏の「識」を加えて合計「六大」とし、この世のありとあらゆる存在は六大によって成り立っていると説かれました。
 識は目に見えない心です。
 地・水・火・風・空は、現象世界であり大自然であり私たちの肉体であり環境世界です。
 環境世界を破壊することはすなわち、心を破壊することです。
 心が荒廃すれば環境世界も荒廃します。
 環境世界を美しく活き活きと保てば、心も瑞々しくはたらきます。
 供養の卒塔婆一体を捧げる時も、こうした思いを添わせ、自然の猛威と、人類の手に余る原発の事故とによって生じた悲しい環境世界をきちんと整え、私たちが瑞々しい心で生きる姿をもって、犠牲となられた御霊への供養としたいものです。

 般若心経をご唱和くださった全国の皆様、まことにありがとうございました。

追記
 作家の故吉村昭氏は、作家仲間の立原正秋氏を送り、こう書きました。
「立原氏は逝き、私は鎌倉で営まれた葬儀に参列した。
 私は、祭壇の氏の遺影を見つめながら、小説を未完で終えざるを得なかった無念を思った。
 小説家の避けることのできない宿命であり、それは私自身のことでもある。
 いつかは私も、未完の作品をぽつんと残してこの世を去るにちがいない。」

 今日の守本尊勢至菩薩様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=qp8h46u4Ja8



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 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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