コラム

 公開日: 2014-03-14  最終更新日: 2014-06-04

つばくろや人が笛吹く生きるため ─心の耳は開いているだろうか─

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。





 大正から昭和を生きた俳人秋元不死男(フジオ)は、人間の生活そのものから目を離せなかった。
 正岡子規を悼む『子規忌』に寄稿したのがこの一句である。

「つばくろや人が笛吹く生きるため」

 自分で註釈をつけている。

「街を歩いていると、豆腐屋がラッパを吹いて通った。
 その上を忙しくツバメが低くとんで、春の夕方の街は気ぜわしげであった。
 単調なラッパの音が一日の働く時間に終わりを告げるように、もの憂く、さびしく街の中を流れ、家の中をかけ抜けていく。
 この句は、そのような夕方の市井の、ありふれた一景にヒントを得、それを拡大して、人はさまざまな笛を吹いて生きていることに、ふと、思いを馳せて作った。」

 NHK連続テレビ小説『ごちそうさん』は、戦後の光景を描き始めた。
 主人公と回りの人々は、生きるため、目の前にあるものを相手に頭を使い、手を用い、周囲へ呼びかける。
 こうした呼びかけの方法として昭和の時代までは、さまざまな笛が吹かれていた。
 豆腐屋、支那そば屋、焼き芋屋、按摩屋、あるいは、会社における労務時間や学校における修学時間の区切などなど。
 いずれにしても、生きている人が生きるため、生きている人へ呼びかけるのである。

 高校生の頃、深夜、受験勉強をしていると、チャルメラが聞こえた。
 暗い寒空の下を一歩、一歩と歩みつつ生きる一人の人間が、確かにいる。
 彼の曳く屋台には、凍える心身をほぐしてくれる細くて醤油味の効いた支那そばが用意されている。
 窓を開けて声をかけ、出て行けば、一杯の支那そばをはさむ二人は寒夜に抗して、暖かく小さな世界をつくる。
 私が出て行かずとも、彼は、チャルメラがあちこちで〈聞かれている〉ことを信じるがゆえに、かじかむ手で屋台を曳いているはずだ。
 個人と他人様、家と世間様とは、隔絶されず、音も心も緩やかに行き来をしていた。
 あれは、障子や襖や厳密に鍵をかけない習慣がもたらした文化だったのだろう。

 時代と共に、呼びかけの形も呼びかけられる形も大きく変貌した。
 自然に共有されていた礼儀や良識は、権利や法律にとって代わられた。
 個人と他人様、家と世間様とは、閉ざされた関係にあることを前提として、交流のルールがこと細かに決められる。
 障子や襖や鍵のかけられていない玄関が姿を消すと共に〈~屋〉の笛も聞かれなくなった。
 善意の呼びかけも悪意の呼びかけも集団で行われ、人々は注意しつつ行き過ぎる。

 モノとして「さまざまな笛を吹いて生きている」時代は去ったが、私たちは、依然として〈さまざまな心の笛を吹いて生きている〉。
 生きるとは信号を発することであり、それぞれの信号は脳内のシナプスのように、つながって初めて意味を持つ。
 秋元不死男の句が、ラッパのない時代に生きる私の胸をうつのは、彼が耳でだけでなく、心でも聞いていたと感じられるからである。
 彼は自分を「アーチスト(芸術家)ではなくアルチザン(職人)である」と言った。
 心の耳を失いたくないと、強く思う。

「のうまく さんまんだ ぼだなん あびらうんけん」※今日の守本尊大日如来様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=LEz1cSpCaXA



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 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。_

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