コラム

 公開日: 2014-04-12  最終更新日: 2014-06-04

恩と愛とをどう生き、どう死ぬか? ―憎しみや争いを離れる道─

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。




〈車窓からとらえた『法楽農園』の先住者〉

 ご葬儀の本旨は、いのちを失い、肉体を捨てる機会をもって、迷いの世からみ仏の清浄で安心な世界へと確かな旅立ちができるよう、み仏のご加護をいただき、旅立ちの区切をつけることにあります。
 だから、み仏と一体になった導師は全身全霊を込めて引導(インドウ)を渡します。
 その少し前の段階で必ず、以下の文言が唱えられ、剃髪の修法が行われます。(皆さんには、はっきりと聞こえず、もちろん、目には見えません)

『流転三界中(ルテンサンガイチュウ) 迷いの世界に流転して
 恩愛不能断(オンナイフノウダン)  恩も愛も断てない
 棄恩入無為(キオンニュウムイ)   恩を棄て無為へ入り
 真実報恩者(シンジツホウオンシャ) 真実の報恩者となるために
 剃除鬚髪(テイジョシュホツ)    髪を剃り除く
 永離煩悩(エイリボンノウ)     永遠に煩悩を離れ
 窮極寂滅(クキョウジャクメツ)』  究極の寂滅へ入る

 札幌在住の北尾克三郎氏は、お大師様がこの一文をめぐって書かれた文章について、わかりやすく説かれています。
 ネット上では、「エンサイクロメディア空海」における「空海の『理趣経』講話-恩と愛から-」にあり、出版物としては「密教メッセージNO19」に掲載されています。

「さとりを得た者をブッダ(目覚めた者)と称し、また真実報恩者(しんじつほうおんしゃ:三界の中に流転して、恩愛を絶つことあたわずとも、恩を棄てて無為に入るならば、真実の恩に報いる者なり)と名づける」

 私たちは、父母や師や先輩などの恩を受けて生き、妻や子や友人などの愛情に包まれて生きます。
 実に、恩と愛とは情緒の源であり、人生の潤いをここで知ってこそ、人間たる生き方ができるようになります。
 しかし、この二つは、その一方で、私たちを〈自分の〉親を大切にする、〈自分の〉妻を失いたくない、という形で自己中心の生き方へも導いています。

 ダライ・ラマ法王は厳しく説かれました。

「一般的な考え方によれば、愛とは愛する対象への親近の情を意味している。
 それを敷衍してわれわれは日常、名声を愛するとか、財産を愛するとか、性欲をその感情の底にひそませて人を愛すると言ったりする。
 だが、こうした愛はねじれていると言わねばならない。」

「このような愛は、愛というより欲望そのものだが、自分の期待する結果が得られた場合にのみ、自分の努力に対する成果が得られた場合にのみ、成就することになる。」

「だが、もし、自分をも愛してくれていると考えていた愛する対象が、その態度を変えたり、振る舞いに愛の終わりを匂わせたりしたなら、あるいは、求愛を撥ねつけたり、

自分の期待に背くような行為に出たりしたなら、このときにはいったいどうなるか。
 自己の欲望を満足させようとする期待が裏切られたならどうなるか。
 こうした愛は、いともすみやかに憎しみへと変容する。」

「なぜこうした愛は憎しみへと変化するのか。
 それはこの種類の愛が〈我〉の上に打ちたてられているからだ。
『私』が愛するからだ。
 それが理由のすべてである。
『私』はどうすれば彼女、あるいは彼の肉体を、心を所有できるか。
『私』の欲望はどうすれば満たされるか。
〈我〉があってそこには〈他〉がない。
 他者は『私』の、いわゆる愛のために存在するにすぎない。」

 実に、恩と愛とは、幻の我(ガ)を主人公とさせてしまう諸刃の剣でもあります。
 ダライ・ラマ法王はさらに説かれます。

「真実の愛は〈他〉もまた自己と同様に、人間であり、一個の存在であることを認めるところから生まれる。
〈他〉もまた〈我〉となんら変わることなく、幸福を願い、痛苦を厭い、苦しみを克服し、平安を獲得したいと願う、生きとし生けるものである。
 これはひじょうに大切なことだ。
〈他〉もまた、〈我〉と同じ幸福を享受する権利を有している。」

「ここから〈他〉、愛の対象への一体感、親近の情、〈他〉への本物の関心が育まれる。
 こうして現れるものが真実の愛である。」

 心から大切にしようとする対象が〈自分の〉親や、〈自分の〉妻だけでなく、〈他〉一般へと広がってこそ、真の意味で恩に報い、愛に生きる者となります。
 そのためにはどうすればよいか?
 答は『理趣経(リシュキョウ)』にあります。
 ふたたび、北尾克三郎氏が読み解いたお大師様の教えに戻ります。

「もし、信仰深い男・信仰深い女があって、一生の内に起こる迷いや苦しみの根本を断ち切り、さとりという安楽の境地に至ろうと思うなら、まず、福徳といのちのもつ無垢なる知のちからとを生じさせる原因となるものを積み、その結果として、無上のさとりに到達すべきである。

 そのいのちのもつ無垢なる知のちからを生じさせる原因になるものというのは、すぐれた経典を書写し、その深い意味を追求し、思考することである。

 そうして、施しをすること、戒めを守ること、忍耐すること、精進すること、精神を統一すること、無垢なる知のちからを発現させることの六つの行ないをすることである。
 それが、福徳の原因になる。

 よくこの思考と行ないの二善を修め、生を授けてくれた父母の恩と、国土の安泰を守る為政者の恩と、衣食住を生産・相互扶助している生きとし生けるもの(動物・植物)の恩と、それらの恩の根本にあるいのちのもつ無垢なる知のちからの存在(仏)・その知のちからがもたらす真理(法)・その真理の教えを伝えるものたち(僧)の三宝の恩との四つの恩に報い、そのおかげに深く感謝をし、それらを救い護(まも)り、生きとし生けるものすべてに恩恵を与えるときは、すなわち自らを利し、他者を利する恵みをともにそなえることになれば、すみやかに一切の無垢なる知のちからの中のもっともすぐれた知のちからに目覚め、そのちからを体得することになるだろう。」

 ここに、剃髪の目的が達成されます。
「永離煩悩(エイリボンノウ)
 窮極寂滅(クキョウジャクメツ)」
 苦や迷いの元である煩悩を永遠に離れ、それらが究極的に寂滅した世界へ入るのです。

 私たちは、2500年も前にお釈迦様が説かれ、1200年も前にお大師様が説かれた安心への道を、なかなか歩めずにいます。
 しかし、いかにこの世で迷っても、せめて、あの世に旅立つ時は、み仏のお力によって自己中心的恩と愛とを離れ、清浄な存在となりたいものです。
 そうして生き死にを繰り返すうちに、徐々に〈無上のさとり〉へと近づき、この世から憎しみや争いが消えて行き、きっと戦争もなくなることでしょう。
 この世で〈真実の愛〉を求めながら、なかかなそうはならずとも、最後はみ仏が必ずお救いくださいます。
 ご葬儀での剃髪と引導との意義をよく考えたいものです。

 今日の守本尊虚空蔵菩薩様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=IY7mdsDVBk8



 ご関心のある方は当山のホームページ(http://hourakuji.net/)をご笑覧ください。
 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。。

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