コラム

 公開日: 2014-05-02  最終更新日: 2014-06-04

よい利己主義もある ─「ダライ・ラマ『死の謎』を説く」を読む(29)─

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。





〈池に咲く花〉



〈『木香舎』増野繁治氏の道場 2〉

 平成6年、ジャーナリスト大谷幸三氏は、インドのダラムサラにおいて、ダライ・ラマ法王への質問を数日間かけて行い、回答をまとめた。
 それがテキスト「ダライ・ラマ『死の謎』を説く」である。

第5章 欲望について ―快楽と至福の喜びはどう違うのか

1 幸福の追求

○質の悪いエゴが、利己主義を蔓延させる

「だが、このような正しい欲望とは反対に、道徳原理や掟など眼中にない欲望もある。
 闇雲に《欲しい》という欲望である。
 他人が何を言おうとも、ひたすら、ただ欲しい、と欲する欲望である。
 その手の欲望は、将来それがどのような影響を及ぼすかもまったく考慮しない。」

 とにかく欲しいというのは、〈万事我がため〉の邪知(ジャチ)による。
 邪知がはたらいているうちに、〈おかげさまを知らぬ〉妄知(モウチ)がはたらき、手に入れる自分勝手な方法を考える。
 欲しいものを手に入れるためなら何でもしようとするのである。
 暴走すれば、まっとうな人間として生きるための戒めである不慳貪(フケンドン…貪らない)戒、不瞋恚(フシンニ…妄りに怒らない)戒、不邪見(フジャケン…気まま勝手な考えを持たない)戒が破られる。
 やがては、不殺生(フセッショウ…妄りな殺生をしない)戒や、不偸盗(フチュウトウ…自分に与えられていないものを手にしない)戒や、不邪淫(フジャイン…妄りな瀬セックスをしない)戒すら破られかねない。
 その過程においては、不妄語(フモウゴ…嘘をつかない)戒、不綺語(フキゴ…飾り言葉を使わない)戒、不悪口(フアック…粗暴な言葉を使わない)戒、不両舌(フリョウゼツ…二枚舌を使わない)もきっと破られていることだろう。
 つまり、堕落しきってしまうのである。

「欲しいから欲しい。
 それが隣人たちに迷惑をかけようと知ったことではない。
 このようなエゴ、これも強固な自己の意識だが、こうした《我(ガ)》は、極めて悪い質のものである。
 これは利己主義を蔓延させる要因として働くエゴにすぎない。」

 利己主義とは、「己を利する」ことを第一とする思考であり、それは常に周囲とぶつかり、波紋を起こし、怨みを買い、侮蔑を受け、信望や信頼を受けられぬ悲しい姿勢だが、〈欲しい〉に囚われてしまった人には、こうした自分のありようが客観的に眺められない。
 結局は誰をも幸せにはしない「極めて悪い質のもの」と言うしかないが、ダライ・ラマ法王は次項で、利己主義にも効用があると説く。

○利己主義は、よりよき人生を拓くこともある

「利己主義といっても、遠大な視野でとらえるある種の利己主義は必ずしも悪であるとは限らない。
 究極のところで、人は幸せを要求する権利を持つ。」

 ここで説く「遠大な視野でとらえるある種の利己主義」とは何だろう?
 それは、自分自身の人生の充実を目ざすことではなかろうか。
 自分は何のために生まれたのか、何のために生きているのか、何をなすべきなのか?
 これらはすべて、〈自分〉にまつわる根本的な疑問である。
 問題意識と言ってもよい。
 ここから出発しなければ、いかなる思想も深まらず、いかなる道徳も宗教も回転寿司のように、あるいは呆然と眺める車窓の外を流れ去る景色のように通り過ぎて行くものでしかない。

 もしも難病の苦しみを目にして何もできない自分がもどかしく、一念発起して科学者や医者になる場合、「何としてもこの難病にうち克つ」という信念で生きる人は、必ず自分を大切にするはずである。
 それは、目的を達成するまでは死ねないからである。
 無我夢中の研究や研鑽は必ず、厳しい自己管理を伴うことだろう。
 これが真の「不惜身命(フシャクシンミョウ)、但惜身命(タンジャクシンミョウ)」である。
 身体もいのちも惜しまずに励むためには、ただただ、身体もいのちも大切に管理せねばならない。
 自己管理のできない人に、真にいのちがけの仕事はできないのである。
 自分を何かへかけて生きる時、人生は充実したものとなる。
 これ以上、〈己を利する〉道はなく、そこには最上の幸福がある。

「つきつめて考えれば、幸せを希求する心の働きは利己主義と相まって、よりよき人生を実現する力となる。
 よりよき人生とは人生の目的そのものである。
 このような働きをする利己主義は、多くのものを達成するであろう。」

 泳げないライフセーバーは、溺れた人を決して救えない。
 まず自分が優れたライフセーバーになろうとして生きる時、人生の目的は達成されつつある。
 悟りを求めようと決心した姿は、まだ開いてはいない蕾の蓮華にたとえられる。
 悟りを開いた姿は、開いた蓮華にたとえられる。
 観音様は両方の蓮華を持つ。
 それは、悟りを求める決心をした時、すでに、心はみ仏の世界へ通じており、観音様は両者を一如としてお導きくださるのである。

「しかしである。
 他者の幸福、他者の権利を踏みにじる利己主義に関しては、狭い心にして愚かな、かつ邪悪な心の所産であると言わねばならない。」

 前述の邪知と妄知が「狭い心にして愚かな、かつ邪悪な心」である。
 それらを抑える「おたがいさま」と「おかげさま」の感覚は、宝ものと言うしかない。

 今日の守本尊不動明王様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=EOk4OlhTq_M



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 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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