コラム

 公開日: 2014-05-03  最終更新日: 2014-06-04

貪欲と匿名の時代 ─「ダライ・ラマ『死の謎』を説く」を読む(30)─

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。






〈『木香舎』増野繁治氏の道場 3〉

平成6年、ジャーナリスト大谷幸三氏は、インドのダラムサラにおいて、ダライ・ラマ法王への質問を数日間かけて行い、回答をまとめた。
 それがテキスト「ダライ・ラマ『死の謎』を説く」である。

第5章 欲望について ―快楽と至福の喜びはどう違うのか

1 幸福の追求

○貪欲は盗みへの第一歩である

「貪欲について述べよう。
 今日の世界では、貪欲であることが成功の秘訣であるように考え、振る舞う者がいる。
 しかし、これは正しい欲望と貪欲とを混同していると言わねばならない。
 貪欲とは、他人のものを自らが所有したいと願う気持ちを言う。」

 ダライ・ラマ法王は、「知性とともにある欲望、誠意ある動機と結合した欲望」を「正しい欲望」とする。
 それは、自己中心ではなく、他のためになろう、他と共に幸せになろうとする願いである。
 私たちは、正しい欲望を持つ時、「強固なる自己の意識」を持つ。
 そのためには、まず〈自分が〉やらねばならないと思うのである。
 ここに「決意」と「自信」が生じる。
 こうした状態ではたらく利己主義は「よりよき人生を拓く」のである。

 しかし、仏法における貪欲とは、そうした状態ではない。
 正当に自分のものとなっていないものを、そのまま自分のものとしてしまいたい欲求、自分のものにしてしまわないではいられない気持である。

「たとえば、他人の書いた論文が見事であるからといって、なんとしてもそれを自分の書いたものとしてしまいたいと思う気持ちは、すでに心の中で盗んでいるのである。
 これは盗みそのものと変わりない。
 ここには自制心の明らかな不足がある。
 羞恥心が欠如している。
 だが、誰かが美しいものを持っているのを見て、自分もそれを買いたいと思う気持ちはなんら問題はない。」

 今、小保方教授の事件が糸口となり、科学の世界で深刻な問題が生じていることが明らかになった。
 しかし、他人が創った文章や画像を、自分の手になったものではないと明確に記さず、いわゆる〈コピペ〉によってそのまま用いる習慣は現代人にすっかりなじんでしまった。
 このあたりは法律の問題ではなく、良心の問題である。
 ここから先へ行ってはならないという自分なりのリミッターすなわち良心の声なき声が聞こえなくなれば当然、「羞恥心」も欠落してしまう。
 万引きの蔓延は、子供の頃にきちんと行動の善悪を教え、悪いことをしようとした時に羞恥心がはたらくよう育てなかった親たちにこそ責任がある。
 ときおり見かける「万引きは犯罪です」というステッカーに、倫理観の低下した時代を実感する。
 他人様のものへ手を出すことは恥ずかしいという〈法律以前〉のところが抜け落ちた文明の醜い貌が見えている。

 たとえば『舞の海の相撲〝俵〟論』における以下の文章に接した時、憧れるのならいざ知らず、「自分のものにしてしまいたい」などというさもしい心がいったい、起こり得るものだろうか。

「優勝力士に天皇杯が授与されるだけでなく、いまでも各地で奉納相撲や奉納土俵入りが行われている。
 相撲界と皇室は切っても切り離せない関係にある。
 それが〝国技〟と称される大きな理由の一つとなっているではないだろうか。
 いまのように一般の客とともに本場所の土俵を観戦するようになったのは昭和天皇の昭和30年夏場所が最初。
 千代の山、栃錦、鏡里、吉葉山の4横綱時代のことである。
 相撲を愛された昭和天皇は以降、40回も本場所をご覧になられている。
 昭和天皇が崩御された際には特別に最後のお見送りが行われた。
 霊柩車(レイキュウシャ)が通る沿道で、当時の二子山理事長(元横綱初代若乃花)ら役員と力士一同が雨の中、傘をささずに紋付きはかま姿でずぶぬれになりながら見送ったのである。」(産経新聞「昭和の日に『天覧相撲』復活を想う」より)

「このふたつを混同してはならない。
 物を獲得するには、その正しい方法を考えること、それについて熟慮すること、これはいくら強調しても足りないほど大切なことである。」

 欲望そのものはいのちの発露であり、善も悪もない。
 問題は、正しい欲望を持ち、正しい方法で達成できるかどうかにかかっている。

「貪欲は盗みへの第一歩である。
 たんなる物欲と思ったものが、一歩、一歩と盗みにまで発展してしまうのは、決して稀なことではない。」

 やみくもに他人のものを欲しくなり、手に入れる方法をよく考えない状態は、〈盗み〉という悪行のわずか一歩手前にある。
 そこで慈雲尊者は不偸盗戒(フチュウトウカイ…盗んではならないという戒め)を「高行(コウギョウ)」と教えた。
 高行とは節操を高く保つ意識と行動である。
 月照(ゲッショウ)はこう説いた。
「やまもりの ゆるさぬほどは たにかげに おちたるくりも ひろはざるなむ」
(山守の 許さぬほどは 谷陰に 落ちたる栗も 拾わざるなん)
 たとえ他人の目が届かぬ深い山奥の谷陰で見つけた栗の実一つであろうと、自分へ正当に与えられているものでなければ決して手にしないと言うのである。
 古来、子供たちはこう教えられてきた。
「お天道様が観ているよ」
 悪事をはたらいていればコソコソと陰に隠れていたくなり、燦々とした陽光を浴びることなど、恥ずかしくてとてもできないといった倫理の感覚を目覚めさせられた。

 今は〈匿名の時代〉である。
 人も社会も〈悪事をはたらく信じられない存在〉であるという認識が前提となり、個人がどう存在しているかという情報は、子供の頃から隠されるようになった。
 その一方で、匿名のネットには、暗闇から矢を射るようなありとあらゆる妄言や罵倒や罠があふれている。
 盗人や破壊者も正体を隠せば、ハッカーという善悪不明の存在となり、国家規模ですら行動する。
 相手の情報を〈盗む〉ことも〈壊す〉ことも当然、悪行(アクギョウ)であり、必ず悪業(アクゴウ)が積まれ、必ずその報いを受けるが、もはや因果応報を〈畏れる〉感覚はほとんど失われた。

 私たちは、貪欲や匿名について「熟慮すること」が求められていると強く思う。

 今日の守本尊阿弥陀如来様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=4OCvhacDR7Y



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