コラム

 公開日: 2014-05-07  最終更新日: 2014-06-04

調和と共生 ─「ダライ・ラマ『死の謎』を説く」を読む(32)─

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。





 平成6年、ジャーナリスト大谷幸三氏は、インドのダラムサラにおいて、ダライ・ラマ法王への質問を数日間かけて行い、回答をまとめた。
 それがテキスト「ダライ・ラマ『死の謎』を説く」である。

第5章 欲望について ―快楽と至福の喜びはどう違うのか

2 相互依存の精神

○学校教育の本質を宗教の宇宙観と融合させよ

「家族の絆に次いで重要なものといえば、教育だろう。
 正しい教育は、人をして健全な人生を送ろうとする傾向を生み出す力になる。」

 財物や地位や名誉などの「外的な価値」に主たる関心を持つのではなく、家族との生活を通じて、支え合って生きることの大切さと自分以外の人のためになる喜びを感じ、その中で得られる深々とした安心感の体験にこそ、価値を見いだすことが大切である。
 若者にとって次に重要なのは、「健全な人生」を求める思考と力をもたらす教育である。

 5月6日、たまたま「世界を変えるテレビ」を目にしたところ、池上彰がフィリピンのスラム街を取材していた。
 子供の頃から暴力で他人のものを奪うギャングになっている地域で、一人の少年が手押し車に教科書を載せ、勉強に関心を持つよう勧めていた。
 その結果、やがて、大人も子供も、学校で学ぶことの楽しさと大切さを知るようになった。
 学んだ少年が成長して先生になり、池上彰から質問を受けた。
「教育とは何ですか?」
 彼は即答する。
「誰にも盗まれない財産です」
 すぐに『法句経(ホックキョウ)』の一節を思い出した。
「悟りは誰も奪えない」

「現代行われている学校教育のあり方については、私は常々多くの疑問を抱いている。
 もちろん、多くの利点があり、人間社会に多大の貢献をしていることも知っている。
 そうした学校教育のよき部分の存在を疑うわけではない。
 しかし、こと人間の内的成長を促すという教育の本義についていえば、西洋流の今日行われている教育というものは、かならずしもすぐれているとはいい難い。」

 ここで言う「西洋流」が何を指すのかはわからない。
 仏教国チベットでも、チベット亡命政府があるインドのダラムサラでも、徹底したチベット語の教育が行われていることを考えれば、資本主義を背景としたグローバリズムの思潮に乗る教育といったものが法王の念頭にあるのかも知れない。

「では、いかなる方法が可能か。
 われわれが今、考えなければならないことと言えば、どうすれば教育を人間の内的成長に寄与させられるか、いかにうまく学校現場での教科として宗教的な課題を採り入れられるか、ということだろう。
 あるいは、教育の本質的な趣旨を宗教が持つ宇宙観と融合させるべきかもしれない。
 今日、学校教育の現場で教えられている、社会科学やその他の近代的学問の中でこそ、そうした融合が行われることが望ましい。
 もちろん、基礎の部分は、道徳教育やその他の情緒教育の科目の中でできるだろうと思われる。」

 東北大学電気通信研究所情報科学研究科の白鳥研究室を率いておられた白鳥則郎教授は、平成22年、「情報処理技術と学会の未来」で述べている。

「50年後に目指すべき新しい第3の社会モデルは、人と人、国と国、地域と地域の関係において効率や利害を超えた公(みんな)と私(自分)の調和に価値をおく『共生社会』と思われる。
 このような社会を支える情報システムについても同じように共生に基づくパラダイムが必須である、と私は考えている。」

 情報処理という科学の世界は、目に見えない縁の糸で結ばれている私たちのありようと密接な関係がある。
 それを「調和」と「共生」という思想が支えるならば、それこそ「宗教が持つ宇宙観」との融合と言えるのではなかろうか。
 調和も共生も、人間や社会や宇宙をどうとらえるかという思考と、とらえた世界において私たちはどう生きるべきかという倫理感に発しているからである。
 よしんば、それが環境破壊や少子高齢化という生活環境の変化をきっかけとするものであったとしても、異なった思考や倫理感によっては、富や資源の独占、あるいは他国への侵略といった方向へ動き、情報処理技術も同方向で用いられて何の不思議もない。
 もしも国家が他国との対立や戦争を目指せば、ありとあらゆるものがそのために役立たせられるようになるのはいつの世も変わらない。
 平成18年、教授の一首が毎日新聞へ掲載された。

「文明に囲まれて暮らすわれの日々を夜空に舞う山鳩に問う」

 白鳥教授のように科学者が哲学や倫理や宗教を問い、ダライ・ラマ法王のように宗教者が科学を問う先にこそ、私たちの未来を拓く新しいパラダイムが見出せることだろう。

「それともう一つ、人口の問題がある。
 比較的少ない人口で、ある程度の高さの生活水準に達した社会が望ましい。
 そんな社会において、環境を整備し、家庭での厳しい教育がなされ、それらが正しい教育と一緒になったとき、人類は、これでとはかなり大きく異なった新しい種類の若者を作り出すことができるのではないだろうか。」

 人間は動物である。
 動物は皆、自分が生きる世界の〈範囲〉を持っている。
 蚊はせいぜいが半径30メートルの範囲で生活し、死ぬ。
 家にいる飼い猫は、家の中、もしくは部屋の中で一生を過ごす。
 しかし、人間だけは、世界中どころか宇宙にまで生活空間を広げようとしている。

 日本人は、洋風の食生活によって腸内細菌の世界が崩れ、肥満や各種アレルギーの増加などにつながっているのではないかいう説がある。
 生活している地域にある食べものを摂る地産地消こそが健康の基であるとも言われている。
 そもそも、手が届くところにあるものを食べつつ、ご先祖様方はいのちをつないでくださったのだ。
 人口減少時代の到来は、私たち誰もが落ちついた、助け合いの精神に満ちたまっとうな社会を創るためのすばらしいきっかけになるのではなかろうか。
 日本は、「比較的少ない人口で、ある程度の高さの生活水準に達した社会」を目指すべきではなかろうか。

「また、メディアについても考えてみよう。
 メディアは今日、若者、子供たちの精神を形成するのにたいへん重要な役割を演じている。
 もし、メディアが建設的な力を発揮しえたなら、今われわれが直面しているような青少年問題などはなかったはずなのだ。」

 メディアで活躍する方々には、白鳥教授が提唱する「調和」と「共生」を忘れないでいただきたいと願う。
 何かを歪ませ誰かを犠牲にする〈発展〉は、善から遠い。

 今日の守本尊虚空蔵菩薩様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=IY7mdsDVBk8



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 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。。

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