コラム

 公開日: 2014-05-11  最終更新日: 2014-06-04

真の優しさは守ることをもって極まる

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。





〈『摩利支天ネット』会員皆様のおかげで、弱った樹木の根元を調え、助け始めました〉

[1の5]優しさ─守る

 真の優ししさは、「守る」ことに極まります。
 誰かを認めたり、何かを与えたりしても、守ろうとする意志がなければ、最後は見捨てかねません。
 これでは、優しさの心は完成しません。

 優しさを表現した絵画として狩野芳崖(カノウホウガイ)の「悲母観音」を思い出す方は少なくないことでしょう。
 明治21年、還暦を迎えた狩野芳崖は肺病に苦しみつつ渾身の力をこめてこの作品を完成させた4日後、落款を押す余裕もないままに逝去しました。
 左手に柳の枝を持った楊柳(ヨウリュウ)観音様は、右手の水瓶から赤児に霊水をかけています。
 病難からの救済を本誓(ホンゼイ…根本の願い)とし、薬王観音とも呼ばれる楊柳観音様は、経典によれば左手を乳房のあたりへおき、右手に持った柳の枝からしたたらせる薬で病魔を退散させるとされています。
 母親の乳には赤児の免疫力を確保する力があるとされており、かつては文字どおりいのちがけだった出産とその後の無事を願う人々に大きな救済力を期待されました。
 悲母観音においては左手が柳の枝を持ち、右手は、よりはっきりした救済力を示すかのように、水瓶から注がれ球体となった聖水で赤児をくるんでいます。
 赤児がいるのは胎内でもあり、胎外でもあるのでしょうか。
 合掌した赤児は、何かを訴えかけるかのように、話すかのように、水を受けとめるかのように、観音様へ向かって朱く小さな唇を開いています。
 その視線を受けとめる観音様の切れ長の目は、まっすぐに赤児へと向けられており、水の球体は何ものにも破壊されない絶対の守護圏を感じさせます。



〈走水神社様よりお借りして加工しました〉

 守る優しさの権化(ゴンゲ)を表現した絵画が悲母観音なら、神話は日本武尊(ヤマトタケルノミコト…倭建命)の妃である弟橘媛(オトタチバナヒメ)に極まります。
 火攻めに遭い、相模から逃れて上総をめざした船が暴風に襲われたおり、日本武尊と共にいた弟橘媛はこう言って入水しました。

「いま風が起こり波が荒れて御船は沈みそうです。
 これはきっと海神のしわざです。
 賎しい私めが皇子の身代りに海に入りましょう」(『日本書紀〈上〉全現代語訳』より)

 姫が海中に消えるとさしもの暴風もたちどころにやみ、日本武尊は無事、役割を果たします。

 旗山崎にある走水神社には、故事にちなんだ絵画や石碑があります。
 弟橘媛が日本武尊へ遺した一首です。

「さぬさし 相武の小野に 燃ゆる火の 火中に立ちて 問ひし君はも」
 御歌意訳です。
「相模の国の野原で、敵に四方から火をかけられあわや焼け死にそうになった時、あの、あなたは、剣で草をなぎはらい、大丈夫か、おまえ、と声をかけてくださいましたね。」
(「弟橘媛」http://www.geocities.jp/kamosuzu/ototatibanahime.htmlより)

 東日本大震災のおりには、宮城県南三陸町の町職員遠藤未希さん(24才)が、押し寄せる津波の中でも、住民へ避難を呼びかける防災無線のマイクを握っていました。
 韓国の旅客船セウォル号が沈没したおりには、女性乗務員パク・チヨン(22才)が最後まで船内にとどまり、次々と乗客へ救命胴衣を着せ、鼓舞し続けたことが記憶に鮮明です。
 他人を思いやる優しさは、こうした〈守る〉強さに極まります。
 ここまで行って初めて、優しさは完成します。

 昨日行われた「ゆかりびとの会」の役員会で、ふとした議論になり、住職の妻が寺の方策を覆すような発言を行い、住職が咎めたところ、会長は「一生懸命やっている奥さんに、そんなにきつく当たってはいけない」と諭しました。
 住職である私は、公の場にふさわしくない軽率なふるまいを咎めましたが、会長はそうした場であれ、妻にはやさしくあって欲しいと求められました。
 私はいったん法務となれば真剣の刃渡りと同じ状態になります。
 これまで何度、妻から「あなたのような人は一人で修行すればいいのよ」と言われ、夜中に幾度、妻子など家族へ独りで詫びてきたかわかりません。
 出家とはこういうものだ、出世間とはこういうものだと、世間にいられなくなった自分の悪業(アクゴウ)に打ちのめされます。
 しかし、その一方で、あれこれ事件の記事を目にすると、もしも自分があのまま世間にいたらどうなっていたかと想像し、出家したがために救われていることを深く実感します。
 自分が救われ、ご本尊様へおすがりする方々の救いにいくばくかは役立っているつもりでも、身近な人を救いきれない自分の愚かさにまた、打ちのめされます。
 かつて、師に教えられました。
「出家者でない妻が本当に帰依してこそ、一流の行者である」
 自分が三流であることを幾度となく思い知り、身内や親族が帰依したお釈迦様やお大師様への憧れが強まります。
 真の優しさ、いかなる場合でも誰をも守る優しさを獲得するための輪廻転生(リンネテンショウ)はまだまだ続きそうです。

 次回から、「厳しさ」について考えます。

 今日の守本尊勢至菩薩様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=qp8h46u4Ja8



 ご関心のある方は当山のホームページ(http://hourakuji.net/)をご笑覧ください。
 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。合掌

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