コラム

 公開日: 2014-05-20  最終更新日: 2014-06-04

「幸福な王子」 ―藤原ウミハルの世界―

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。






 オスカー・ワイルド原作の『幸福な王子』は、最も読まれている絵本の範疇に入ると思われる。
 子供たちに支持される理由はいくつもある。
 自分を飾る宝石や金箔などをすべて困っている人々へ分け与える王子の思いやり。
 王子の優しさに打たれ、エジプトへ帰らず貧しい人々を助け、力尽きてしまったツバメの献身。
 誰にも気づかれなかった善行を観ていて、王子の心臓とツバメの亡骸を天国にいる神様のところへ持っていった天使。

 しかし、藤原ウミハル著『図書館の主(アルジ)』を読んで驚いた。
 原作には童話の絵本にふさわしくない深刻な記述があるという。
 
 王子のみすぼらしい姿とツバメの死骸を目にした為政者たちはこう言った。
「幸福の王子は何てみすぼらしい姿になったんだ」
「しかも足元では鳥まで死んでいる」
「われわれはここで鳥は死ぬべからずというおふれを出さなければ」
「王子の像は美しくなくなったから役には立たない」
 そしてさっそく王子の像を取り壊したが、次の彫像を誰にするか、自分の像こそがふさわしいと言い張る人々の間でいまだに決着はついていない。

 早世した王子を悼むために建てられた像を簡単に取り壊し、あとは造り替えず、あわよくば自分の像を建てさせようとするなど、あまりにも醜い。
 ここには、見てくれが〈美しい〉モノを造っただけでこと足れりとする為政者の偽善性や、自分への称賛を求める俗物性が露呈されている。
 鳥たちへ向かって「ここで死んではならない」とお触れを出そうとする部分は滑稽だが、人の死を病院へ閉じ込め、老苦・病苦・死苦を隔離し、キラキラしい空間で過ごそうとする都市文明への皮肉も感じられる。
 そして、「美しくなくなった」像は「役に立たない」とする浅はかさ。
 時間の経過がもたらす〈滅び〉をまとうものの美しさなどには心のアンテナが反応せず、誰でもが等しく〈見目麗しい〉と感じるであろうと期待される金や宝石で飾る地点で止まった感性。
 オスカー・ワイルドは厳しい。

 また、宝石や金箔を分け与えられた人々の誰もが救い主の正体を考えず、王子の像が誰からも感謝されず、いとも簡単に取り壊されるのも異様だ。
 救われた人々は、盗んだと嫌疑をかけられる虞(オソレ)があるから知らん顔をしているのだろうか。
 それともオスカー・ワイルドは、世間などそんなものだと突き放しているのか。

 神様から「あの町でもっとも尊いものを二つ持ってきておくれ」と指示された天使は、鉛なのにどうしても溶けなかった王子の心臓とツバメの亡骸を届ける。
 神様は言う。
「お前は正しく選んだな。
 わたしはこの天国の庭で小鳥には永遠に歌をうたわせよう。
 幸福の王子には私をほめたたえさせよう」
 これで王子とツバメは報われ、救われたのだろうか?
 小さな子供ならば、天使が登場し天国へ召されたのなら、それだけで、めでたしめでたしという気持になるだろうが、ある程度の年令に達した子供には釈然としないものが残るだろう。
 まして大人であれば……。

 藤原ウミハルは、物語と離れた場面で登場人物に言わせている。
「こんな汚ねぇ世の中で、王子もツバメも自分の信じたモン貫いたんだ。
 汚ねぇからこそそれがより輝いて見えんだよ」
「天国に行けようが行けまいが、すくなくともツバメは幸せだったと思えるだろ」

 ところで、『図書館の主』はマンガである。
 日本のマンガ文化は世界に誇り得る。
 嬉しくも新鮮な体験をした。
 がんばれ!藤原ウミハル氏。
 がんばれ!『図書館の主』。
 がんばれ!日本のマンガ。

 今日の守本尊文殊菩薩様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=WCO8x2q3oeM



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 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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