コラム

 公開日: 2014-06-07 

寺子屋の教え『実語教・童子教』を考える(その73) ─澄んだ心の感応・山頭火も放哉も―

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。




〈解体される……、ご苦労様でした〉

 江戸時代まで寺子屋などの教材となっていた『実語教・童子教』を読んでいます。
 今回は、親孝行の心が虎に通じたお話です。

○顔鳥(ガンチョウ)の故事

 これは、中国の『廣輿記(コウヨキ)』にあるお話です。

 漢の時代、顔鳥(ガンチョウ)という人がいました。
 亡くなった父親を弔うために何度も何度も土を背負って運び、お墓を造りました。
 それを見かねた烏(カラス)たちが群がり、それぞれがくちばしに土を含み、一緒にお墓へ積みました。
 烏たちはとうとう、一羽残らずくちばしを傷めてしまい、その地は烏傷(ウショウ)と名づけられました。

 このお話は明の時代に陵墓類を集めた『大明一統志』にも紹介されており、義烏(ギウ)県の東方四里ほどのところに、この故事を書いた石碑が建っているとされています。
 義に感じる烏という県名までできていたようです。

 また、新朝を開いた皇帝王莽(オウモウ)は、「烏傷」を「烏孝(ウコウ)」と改めさせました。
 傷ついたカラスでは地名としてなさけないし、孝行を称えてやろううと考えたのでしょう。
 もっとも、王莽は中国が世界の中心であるという中華思想を強く抱き、「高句麗」を「下句麗」と改名しようとして混乱を招いたりもしました。

 原文です。

「顔鳥(ガンチョウ)墓の土を負えば、烏鳥(ウチョウ)来たりて運び埋(ウ)む」

 前回、学んだのは、楊威(ヨウイ)の心が虎に伝わった話でした。
 今回はカラスです。
 山懐(ヤマフトコロ)にある当山では、墓地でお経を読み始めると、いろいろな鳥たちが一緒に鳴いてくれることが珍しくありません。
 仙台市や富谷町などから来られる方などは、びっくりされます。
 あるいは、枕経に駆けつけたお宅で、別室に隔離された故人の愛犬がお経に合わせて「ワオーン、ワオーン」「クーン、クーン」と鳴いたりすると、皆さんのすすり泣きがいや増したりもします。
 ネコにはこうした体験がありません。
 もっとも、托鉢で立ったままお経を唱えていて、正面から頭陀袋(ズダブロ…首にかけた黒い布袋)に飛びつかれ、読経を止められもせずに困ったことなどはありましたが。

 さて、ともすると、都会人には厄介者扱いされるカラスですが、私たちのそばにいて、おりおりにポンと通じ合ったりもします。
 種田山頭火の名句です。

「鴉(カラス)啼(ナ)いてわたしも一人」

 こんな添書きがあります。

「放哉(ホウサイ)居士(コジ)の作に和して」

 尾崎放哉(ホウサイ)の句に和する気持で詠んだというのです。

「咳をしても一人」

 放哉の世界は絶対の孤独です。
 苦しくて咳をする。
 苦しいのは自分、咳をするのも自分、そして咳を聞くのも自分しかいません。
 苦しみも咳も決して望むものではないのにそれらと共にしか自分の存在はない。
 だからといって放恣になっているのかと言えばけっしてそうではなく、証拠は「しても」の「も」にあります。
 この「も」によって孤独を確認している精神の強靱さ。
 そして、「も」は、誰かが咳を聞いていたわってくれることを望んでいるのではなく、いたわってくれる人がいないことを嘆いているのでもなく、じっと、ただ、そこに在る石のような存在そのものに徹する姿を示しています。

 そうした点からすれば、山頭火には、自分以外にカラスがいます。
 カラスの「カアー」と鳴く声は天地の存在を意識させ、出て行った心がたちどころに反転し、天地の間にたった一人で声を聞く自分を意識させます。
 放哉の咳は自分から出ました。
 カラスの声は外から聞こえてきました。
 しかし、それはどちらでも同じことです。
 遍満し、森羅万象に感応する心からすれば、自分の身体も身体を包む外界も、変わりはありません。

 放哉も山頭火も、読み継がれ、心の振り子を揺らし続けているのは、孤独が暗黒に陥っていないからではないでしょうか。
 当山の瞑想では、自分の心を光明世界へと解き放ちます。
 たった一人の自分が、たった一つの心を解き放つ先に、み仏の世界を観ます。
「こうして呼吸している自分、生きている自分、生かされている自分……。
 この自分はどこから来て、どこへいくのでしょうか。」

 顔鳥(ガンチョウ)はきっと、親を失った悲しみのうちにも、孝行という澄んだ心は輝きを失わなかったのでしょう。
 その光明世界では、人間もカラスも、とりわけ区別はありません。
 おのづから通じ、カラスにもおのずから、同調という感応と行動が生まれたのでしょう。
 山頭火も放哉もまた、澄んだ心の世界にいた人々だったのでしょう。

 今日の守本尊不動明王様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=EOk4OlhTq_M



 ご関心のある方は当山のホームページ(http://hourakuji.net/)をご笑覧ください。
 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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