コラム

 公開日: 2014-07-01 

無常を知るのに早すぎるということはない ―寺子屋の教え『実語教・童子教』を考える(その76

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。




〈sれぞれに〉

 江戸時代まで寺子屋などの教材となっていた『実語教・童子教』を読んでいます。

「いかに豪華な衣装であっても、必ずやってくるあの世へ旅立つ時の準備にはなりません。
 金銀も宝石も、ただ、自分がこの世にいる間の財宝でしかありません。
 ぜいたくな暮らしも、万事が意のままになる勢いも、ましてや、仏道の役には立ちません。
 高い役職を誇ろうとも、たかだか、この世での名声、譽れでしかありません。」

 以下、原文です。

「綾羅(リョウラ)錦繍(キンシュウ)は
 全く冥途(メイド)の貯えに非(あら)ず  
 黄金(オウゴン)珠玉(シュギョク)は
 只(タダ)一世(イッセ)の財宝 
 栄花(エイガ)栄耀(エイヨウ)は
 更(サラ)に仏道の資(タス)けに非(アラ)ず  
 官位寵職(チョウショク)は
 唯(タダ)現世(ゲンセ)の名聞(ミョウモン)」

「寿命の長い亀や鶴のようにと末永い契りを誓っても、露が朝陽に消えゆくように、儚いものです。
 仲の良いオシドリのように寄り添っても、身体が元気なうちのことでしかありません。」

 以下、原文です。

「亀鶴(キカク)の契(チギ)りを致すも
 露命(ロメイ)の消えざるが程は  
 鴛鴦(エンオウ)の衾(フスマ)を重ぬるも
 身体(シンタイ)の壊(ヤブ)れざる間(アイダ)」

「いかに恵まれた天界へ昇ろうとも、生死の輪廻を脱しない限りは、楽しみ続けられません。
 天界の王である梵天であっても、いつかは火や血や刀で苦しむ地獄への転生を免れません。   
 十もの徳を兼ね備えた長者スダッタですら、無常の鬼に連れ去られ、あの世へ行かねばなりません。
 七宝を用いてつくったたくさんの仏塔へ仏舎利を納めるほど福徳のあるアショーカ王すら、寿命をお金で買うことなどはできませんでした。」

 以下、原文です。

「忉利(トウリ)摩尼殿(マニデン)も
 遷化(センゲ)無常を歎(ナゲ)く  
 大梵(ダイボン)高台(コウダイ)の閣(カク)も
 火血刀(カケツトウ)の苦しみを悲しむ  
 須達(シュダツ)の十徳(ジットク)も
 無常を留(トド)むること無し  
 阿育(アイク)の七宝(シッポウ)も
 寿命を買うこと無し」

 無常の理は、「さあ、これから」と未来へ向かう姿勢の強い子供たちへ、きっちりと教えられていました。
 さまざまな勉強は、「官位寵職(チョウショク)は、唯(タダ)現世(ゲンセ)の名聞(ミョウモン)」と知った上で、蛍の光や窓の雪を便りに行っていたのです。
 おのづから、自分中心の小我(ショウガ)は抑制され、同じ無常を生きている周囲の人々への思いやりが醸成されていたのではないでしょうか。

 明治33年に生まれた世界的物理学者中谷宇吉郎は、パリからベルリンへ旅立つ時、同じくパリで勉強している数学者岡潔から、大きなカレイをごちそうされました。
 中谷は、好意に感謝するのではなく「岡さん、アメリカン・マーチャント(アメリカ商人)のようなことをしなさんな」と10回以上、叱りました。
 また、臨終を迎えた中谷は、奥さんへ子供たちに対する注意を述べ、自分が非常によくしてもらった礼を言い、「静子、他人(ヒト)には親切にするものだよ」と言い遺しました。
 岡潔は、このできごとが「小さな親切運動」の発端であると書いています。

 最近、NHKテレビでこんなシーンを見かけました。
 東日本大震災のおり、フィリピン人女性が大勢の日本人に混じって津波から避難していました。
 ようやく救助隊が到着しましたが、彼女は「私はフィリピン人だから、すぐに助けてはもらえない」と思いました。
 ところが、見知らぬ日本人から「一緒に行こう」と声をかけられたのです。
「ああなると、フィリピン人も日本人もなくなるんですね。
 助けてって言えば、助けてもらえるんだなあと思いました。
 そして、ここなら、この先、何とかなるって感じました。
 だから、気仙沼でやってゆこうと決心したのです」
 彼女は今、介護士をめざして特訓中です。

 こうした日本人の心の麗しさはどこから来ているのでしょうか。
 無常を知ること、そして、誰しもが無常を生きる存在として平等であると気づくこと、そして、そこから温かな思いやりを生じること。
 『実語教・童子教』が、そうした心の流れをつくる〈深山に潜む泉〉の一つであると思われてなりません。

 今日の守本尊不動明王様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=EOk4OlhTq_M



 ご関心のある方は当山のホームページ(http://hourakuji.net/)をご笑覧ください。
 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

この記事を書いたプロ

大師山 法楽寺 [ホームページ]

遠藤龍地

宮城県黒川郡大和町宮床字兎野1-11-1 [地図]
TEL:022-346-2106

  • 問い合わせ
  • 資料請求

このコラムを読んでよかったと思ったら、クリックしてください。

「よかった」ボタンをクリックして、あなたがいいと思ったコラムを評価しましょう。

1

こちらの関連するコラムもお読みください。

<< 前のコラム 次のコラム >>
最近投稿されたコラムを読む
Q&A
セミナー・イベント
お客様の声

○Aさん(中年女性)の場合 心身の不調を縁としてご加持を受け、自分の願いが通じると実感されました。 そして祈り方を覚え、商売や家庭にさまざまな問題を抱えなが...

 
このプロの紹介記事
遠藤龍地 えんどうりゅうち

人々が集い、拠り所となる本来の“寺”をめざして(1/3)

 七つ森を望む大和町の静かな山里に「大師山 法楽寺」はあります。2009年8月に建立されたばかりという真新しい本堂には、線香と新しい畳のいい香りが漂います。穏やかな笑顔で出迎えてくれた住職の遠藤龍地さんにはある願いがありました。それは「今の...

遠藤龍地プロに相談してみよう!

河北新報社 マイベストプロ

宗教宗派を問わず人生相談、ご祈祷、ご葬儀、ご供養、埋骨が可能

所属 : 大師山 法楽寺
住所 : 宮城県黒川郡大和町宮床字兎野1-11-1 [地図]
TEL : 022-346-2106

プロへのお問い合わせ

マイベストプロを見たと言うとスムーズです

022-346-2106

勧誘を目的とした営業行為の上記電話番号によるお問合せはお断りしております。

遠藤龍地(えんどうりゅうち)

大師山 法楽寺

アクセスマップ

このプロにメールで問い合わせる このプロに資料を請求する
プロのおすすめコラム
村上春樹氏の「影と生きる」に想う ─影が反逆し始めた世界─
イメージ

 おはようございます。 皆さん、今日もお会いできましたね。 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被...

[ 世間は万華鏡 ]

自衛隊員の本音 ─出征する覚悟、辞める無念─
イメージ

 おはようございます。 皆さん、今日もお会いできましたね。 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被...

[ 不戦堂建立への道 ]

12月の守本尊様は千手観音菩薩です ─救われる時─
イメージ

 皆さん、今日もお会いできましたね。 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故...

[ 今月の守本尊様・真言・聖語 ]

Q&A(その32)自業自得なら廻向で救われない? ─因果応報と空の話─
イメージ

 皆さん、今日もお会いできましたね。 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故...

[ 仏教・密教 ]

一年と一周忌供養 ─あの世でもこの世でも救われる話─
イメージ

 おはようございます。 皆さん、今日もお会いできましたね。 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被...

[ 葬儀・供養の安心 ]

コラム一覧を見る

スマホで見る

モバイルQRコード このプロの紹介ページはスマートフォンでもご覧いただけます。 バーコード読み取り機能で、左の二次元バーコードを読み取ってください。

ページの先頭へ