コラム

 公開日: 2014-07-02 

自然の力とカルマの力 ─「ダライ・ラマ『死の謎』を説く」を読む(39)─

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。



〈産経新聞様よりお借りして加工しました〉

 平成6年、ジャーナリスト大谷幸三氏は、インドのダラムサラにおいて、ダライ・ラマ法王への質問を数日間かけて行い、回答をまとめた。
 それがテキスト「ダライ・ラマ『死の謎』を説く」である。

第6章 宇宙の法則 ―大宇宙の真実が語りかけるもの―

2 宇宙の創造

○カルマの力の総体と自然が、宇宙を創造する

「たとえば、建物を考えよう。
 すべての建築物とは、労力と素材の結合体であるが、素材はもとより存在したわけである。
 素材はそれら自身の持つ理由によってそこにあり、それら自身の条件に応じてそこにある。
 そして、素材は素材自身の進化を遂げて、すなわち人の努力をその上に加えられて、建築物となったわけである。」

 建物は、素材へ人間の構想力と創造力が加えられてできあがる。
 たとえば、樹木はそれが生存できる条件のもとで、材木として役立つまでに成長した。
 やがて、人間が伐り、加工し、柱へと姿を変え、建物の一部として人間界での役割を負った。
 変化をもたらしたものは、人間の業(ゴウ)、ここで言うところのカルマである。

「同じように、宇宙が進化、発展を遂げるのは、生きとし生けるもの、存在そのもの、この宇宙を自らの存在の基盤と見なして、存在するもののカルマの力の総体が、最大の要因として働くということだ。」

 同じように、宇宙の変化には、目に見えぬカルマの力がはたらいている。
 意識や記憶のはたらきに先んじる目に見えぬ〈何ものか〉の変化があり、その結果として、いつの間にか、私たちは〈自分〉として、ここにいる。
 自分と同じく、カルマによって存在し、変化し、カルマを作り続ける無数のものたちによって、それぞれに〈この世〉はあり、そうした〈この世〉の総体として、世界が存在していると想定できる。
 個人的に悪しき業をつくる人々によって構成された社会は悪しき共業(グウゴウ…集団的な影響力すなわち、社会的カルマ)をつくり、住みにくい社会となり自然も破壊される。 
 たとえば、北極や南極の上空で、成層圏のオゾン層は「オゾンホール」と呼ばれるほど濃度が下がる。
 オゾン層を破壊するのは、人間がつくりだす有害物質である。
 ホールがあまりに大きくなれば、生きものへ悪しき影響を及ぼす有害物質が大量に降りそそぎかねないので、各国が協力してフロンなどの規制を始めている。
 また、人間にとっての〈異常〉気象は、人間の営みが関係しているのではないかと言われているが、その〈異常〉度は増すばかりである。
 社会は世界へつながり、世界は地球へつながり地球は宇宙の一部である。
 いずこかの天体で、地球にいる人間以外の生きものがカルマをつくっていないはずがあろうか。

「もう一つの原因がある。
 それは、宇宙に浮遊する粒子である。
 全宇宙に浮遊する粒子は、宇宙を構成する力を秘めており、それらが集合して新しい宇宙を創造する。
 だが、これら宇宙を浮遊する粒子はカルマによって作られたものではない。
 それらは、そこにあるのである。
 それが自然である。
 必然を内包して自然はあったのであり、あるのであり、ありつづけるのである。」

 カルマだけでなく、世界を存在させているもう一つの原因は、純然たるモノの世界である。
 宇宙が有る原因をたどれば、微細な粒子にたどりつく。
 宇宙は、こうしたモノを構成する粒子などによって成り立っている。
 そこにはたらく原理は、モノの世界の原理である。
 人間が手を加えようと加えまいと、樹木は樹木自身の持つ自然界の力によって育ち、枯れる。
 山も、宇宙も同じである。

「生きとし生けるもののカルマの力は、他の形を取った因子に変容することがある。
 これは重要なことだ。
 ひとつは、たとえばこの建築物に使用されている素材が、素材そのものから建築物に形を変えたように、自然の流れのような変容を示すことだろう。
 また、自然の流れといえども、それが、人間をそのうちに含む、すべての生きとし生けるものたちの行為、カルマと相互に働き合ったなら、宇宙の形成が宇宙の溶融へと続くことになるだろう。」

 目に見えないカルマのはたらきは、まったく別な原理で成立している自然界のモノと関わり、モノの形をとってはたらく場合がある。
 人間の誕生もその一つである。
 そして、人間が生まれ、成長し、老い、死ぬように、宇宙もまた、四相(シソウ)という四つの相貌を見せる。
 生(ショウ…生じる)・住(ジュウ…留まる)・異(イ…変化する)・滅(メツ…滅する)である。
 宇宙物理学者佐藤勝彦氏などが提唱した宇宙創生の「インフレーション理論」はおもしろい。
 宇宙の誕生とされるビッグバンに先立つ〈誕生〉の瞬間があり、そこから超高速で宇宙が加速膨張した結果としてビッグバンが起こったという。
 膨張があまりに急激だったため、時空は歪み、アインシュタインが予言した重力波という証拠が残ったとされる。
 今、世界は、この重力波をいかに高精度で把握するかの競争に入っている。
 わずか10の34乗分の1秒というまたたきもできぬほどの瞬間が「生」なら、それから現在までの138億年は「住」の期間だろう。
 さて、せっかく光が直進できるようになったこの宇宙に、いつ、いかなる「異」が起こるのか?
 もっとも、星々はそれぞれに「異」どころか「滅」も迎え、宇宙は四相の庭となっている。

「したがって、仏教的宇宙観とは、哲学的なある種の止揚(シヨウ)である。
 具体的には、自然そのものの持つ進化、発展の力と、生きとし生けるもののカルマの力、この相容れないふたつの力の総合であると言ってもいいだろう。」

 要は、それ自体ではたらくモノの世界の因果律と、同じくカルマを積み重ねる心の世界の因果律と、異質なものが関わり合ってこの世があるという考え方である。
 勝手に森の中で育っていた樹木は、人間によって建物を構成するようになれば生きものとして死ぬが、板や柱として新たな役割を果たすようになる。
 一方、俳人櫂未知子(カイ・ミチコ)氏は、心のおもむくままに句を詠んでいるが、書物というモノを介すると、まったく見知らぬ私の心に新鮮な風をもたらす。
「ぶらんこにのせてあげよう死ねるまで」
 表面の心から隠れている加虐的心理を掴みだしている。
 ブランコに乗ったら最後、押されるままである。
 乗った子供は、押す大人に自分の存在をほとんど委ね切っている。
 圧倒的な弱者と強者の関係。
 この強者の立場に立った時、加虐的心理が顔をのぞかせる危険性は誰にでもあろう。
 育児、介護、看護、などなどの現場において、人間が倫理的であることを求められる最大の理由はここにある。
 あまり表立って言われない真実を、わずか17文字ではっきり言ってしまうとは、まさに芸術の力である。
 この句を心に刻んだ私のカルマは必ず変わる。
 櫂未知子氏のカルマが、紙でできている本というモノを介して、やってきた結果である。

 正統な仏教は、決して科学と対立しない。
 宇宙観であれ、世界観であれ、人間観であれ、これからも科学に影響されながら深化し続けてゆくことだろう。
 科学の世界もまた、ことをどこまで進めるか、あるいは、成果をいかに用いるか、などの地点において、仏教的世界観や人間観やカルマ観などを参考にする場面があるのではなかろうか。

 今日の守本尊阿弥陀如来様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=4OCvhacDR7Y


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 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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