コラム

 公開日: 2014-07-10 

『貝の火』を読んだことがありますか ―宝珠の予告―

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。





 宮澤賢治に『貝の火』という短編童話がある。

 川で流されていたヒバリの子供をいのちがけで助けたウサギの子ホモイは、お礼に「私どもの王からの贈物」という宝珠「貝の火」をもらう。
 それは「お手入れしだいで、この珠はどんなにでも立派になる」という。
 父親は
「一生満足に持っている事のできたものは今までに鳥に二人魚に一人あっただけだという話だ。
 お前はよく気をつけて光をなくさないようにするんだぞ」
と諭す。

 翌日からホモイの生活は一変する。
 リスや馬などが宝珠の持ち主であるホモイを誉めたり、おべっかを使ったりする。
 増長したホモイは、日光が苦手なモグラへ鈴蘭の実を集めてこいと命じ、断られると脅す。
 ホモイの命令でリスが集めた大量の鈴蘭の実を前に、父親は心配し、ホモイは泣く。
「お前はもうだめだ。
 貝の火を見てごらん。
 きっと曇ってしまっているから」
 しかし、宝珠は「一昨日の晩よりも、もっともっと赤く、もっともっと速く燃えている」ので、ホモイは泣き止み「みんなはまた気持ちよく笑い出しいっしょにご飯をたべて」寝た。

 やがて、暴力的で狡猾だったキツネが、ホモイへ食べたことのないほど美味しいものを差し出す。
「さあおあがりなさい。
 これは天国の天ぷらというもんですぜ。
 最上等のところです」
 ホモイは訊ねる。
「こんなものどの木にできるのだい」
 キツネは答える。
「台所という木ですよ。
 ダアイドコロという木ね。
 おいしかったら毎日持って来てあげましょう」
 そして、毎日、三つづつ持って来て欲しいと言うホモイへ交換条件を出す。
「へい。
 よろしゅうございます。
 そのかわり私の鶏をとるのを、あなたがとめてはいけませんよ」
 ホモイからパンをもらった父親は怒る。
「お前はこんなものを狐にもらったな。
 これは盗んで来たもんだ。
 こんなものをおれは食べない」
 そしてパンを踏みつけ、ホモイも母親も泣く。
 宝珠を見ると、「玉はお日さまの光を受うけて、まるで天上に昇って行きそうに美しく燃え」ている。
 父親は黙り、ホモイの涙も乾く。

 翌日、今度は、キツネにそそのかされてモグラをいじめる。
 それを知った父親は言う。
「ホモイ。
 お前はもう駄目だめだぞ。
 今日こそ貝の火は砕けたぞ。
 出して見ろ」
 しかし、宝珠は妖しい輝きを増す。
「貝の火が今日ぐらい美しいことはまだありませんでした。
 それはまるで赤や緑や青や様々の火がはげしく戦争をして、地雷火をかけたり、のろしを上げたり、またいなずまがひらめいたり、光の血が流れたり、そうかと思うと水色の焔が玉の全体をパッと占領して、今度はひなげしの花や、黄色のチュウリップ、薔薇やほたるかずらなどが、一面風にゆらいだりしているように見えるのです。」
 父親はひとこと注意する。
「ホモイ。
 狐には気をつけないといけないぞ」
 ホモイは応える。
「お父さん、大丈夫ですよ。
 狐なんかなんでもありませんよ。
 僕には貝の火があるのですもの。
 あの玉が砕けたり曇ったりするもんですか」
 その夜、寝ていたホモイは初めての体験をする。
「高い高い錐のような山の頂上に片脚で立っているのです。
 ホモイはびっくりして泣いて目をさましました。」

 翌日、キツネは鳥や虫を網にひっかけ、動物園を作ろうと言い出す。
 動物園の様子を想像したホモイは「たまらなくおもしろくなり」賛成する。
 ホモイがキツネからもらったパンを家に置いて戻ってくるまで、もう、キツネが用意したガラス箱の中には「かけすと鶯と紅雀と、ひわ」が入り、バタバタしていた。
 ホモイの姿を見て安心した鶯が命乞いをする。
「ホモイさん。
 どうかあなたのお力で助たすけてやってください。
 私らは狐につかまったのです。
 あしたはきっと食われます。
 お願いでございます。
 ホモイさん」
 ホモイが箱を開こうとした時、「口が横に裂け」そうな形相になったキツネが本性を顕す。
「ホモイ。
 気をつけろ。
 その箱に手でもかけてみろ。
 食い殺すぞ。
 泥棒め」 
 ホモイがパンももらう代わりに、キツネが鶏を捕ることを許した以上、キツネの言い分は通っている。
 恐ろしくなったホモイが逃げ帰り、宝珠を見ると、ついに「一所小さな小さな針でついたくらいの白い曇が見える」のだった。
 父親も母親も磨いたが曇りは取れず、父親の提案で宝珠の入った箱へ油を注ぎ、そろって早々と眠りに就いた。

 夜中に目覚めたホモイの目に映った宝珠にはもう、赤い火はなく、「油の中で魚の眼玉のように銀色に光って」いるだけである。
 泣き出したホモイからようやくキツネの網について聞かされた父親は言う。
「ホモイ。
 お前は馬鹿だぞ。
 俺も馬鹿だった。
 お前はひばりの子供の命を助けてあの玉をもらったのじゃないか。
 それをお前は一昨日なんか生まれつきだなんて言いっていた。
 さあ、野原へ行こう。
 狐がまだ網を張はっているかもしれない。
 お前はいのちがけで狐とたたかうんだぞ。
 もちろんおれも手伝う」

 夜が明けかけた野原で、三人はキツネと対峙する。
「狐。
 お前はよくもホモイをだましたな。
 さあ決闘をしろ」
 父親の呼びかけに「実に悪党らしい顔」のキツネは応じる。
「へん。
 貴様ら三疋ばかり食い殺してやってもいいが、俺もけがでもするとつまらないや。
 おれはもっといい食べものがあるんだ」
 三人は、取り返した箱から百匹あまりの鳥たちを逃がす。
 あのヒバリの親子も助かった。
 父親は曇った宝玉を見せようと、皆を家へ案内する。
 以下は、最後までのシーンである。

「もうこんなぐあいです。
 どうかたくさん笑ってやってください」
と言いうとたん、貝の火は鋭くカチッと鳴って二つに割れました。
 と思うと、パチパチパチッとはげしい音がして見る見るまるで煙のように砕けました。
 ホモイが入口でアッと言って倒れました。
 目にその粉がはいったのです。
 みんなは驚いてそっちへ行こうとしますと、今度はそこらにピチピチピチと音がして煙がだんだん集まり、やがて立派ないくつかのかけらになり、おしまいにカタッと二つかけらが組み合って、すっかり昔の貝の火になりました。
 玉はまるで噴火のように燃え、夕日のようにかがやき、ヒューと音を立てて窓から外の方へ飛んで行きました。
 鳥はみんな興をさまして、一人去り二人去り今はふくろうだけになりました。
 ふくろうはじろじろ室の中を見まわしながら、
「たった六日だったな。
 ホッホ
 たった六日だったな。
 ホッホ」
とあざ笑わらって、肩をゆすぶって大股に出て行きました。
 それにホモイの目は、もうさっきの玉のように白く濁ってしまって、まったく物が見えなくなったのです。
 はじめからおしまいまでお母さんは泣いてばかりおりました。
 お父さんが腕を組んでじっと考えていましたが、やがてホモイのせなかを静かにたたいて言いました。
「泣くな。
 こんなことはどこにもあるのだ。
 それをよくわかったお前は、いちばんさいわいなのだ。
 目はきっとまたよくなる。
 お父さんがよくしてやるから。
 な。
 泣くな」
 窓の外では霧が晴れて鈴蘭の葉がきらきら光り、つりがねそうは、
「カン、カン、カンカエコ、カンコカンコカン」と朝の鐘を高く鳴らしました。

 宮澤賢治は原稿の表紙に「吉→吝→凶→悔」と円環状に書いていた。
 よいできごとに浮かれている時は、もう、吝嗇(リンショク)という邪念が生じている。
 いい気になっている時は、もう、慢心も育っている。
 やがて、吝嗇や慢心の報いである悪いできごとがやってきて、それに打ちのめされる中から懺悔が生まれ、悔悛は吉運への道を開く。
 宝珠は権力の象徴だろう。
 それをうまく用いた者は歴史上、「鳥に二人魚に一人」だけだったというのは厳しい。
 宝珠を手にした者によって最後は必ず争いになる。
 宝珠は「まるで赤や緑や青や様々の火がはげしく戦争をして、地雷火をかけたり、のろしを上げたり、またいなずまがひらめいたり、光の血が流れたり」と予告するが、私たちはそれを見て〝どこか、おかしい〟〝このままで、大丈夫だろうか〟と感じても、いつものように、眠りに就く。
 本当の戦争が始まるまで、そうした毎日を過ごしてしまう。
 この作品は昭和9年、宮澤賢治が亡くなった翌年に出版された。
 今から80年前のことだった。

 今日の守本尊勢至菩薩様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=qp8h46u4Ja8



 ご関心のある方は当山のホームページ(http://hourakuji.net/)をご笑覧ください。
 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。合掌

この記事を書いたプロ

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