コラム

 公開日: 2014-07-28 

もう一つの『心』 ―平成26年8月の運勢―

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。





 平成26年8月の運勢です。
 今月は、ものごとが停滞しがちでも、焦って早くやろうとすれば地雷を踏みかねず、迷えばどこまでも迷ってしかねない「警戒警報発令」の時期です。
 事態が難しければ難しいほど、至心にものごとの本義を確認してから行動に移らねばならず、自分に都合のよい考え方で思考停止のまま突っ走ったり、心を惹かれる相手のペースに乗って進むようでは危険極まりありません。

 夏目漱石に『心』という短篇小説があります。
 あの『こころ』があまりにも有名なため、この上品な香水の小瓶にも似た作品は、あまり注目されていないと思われますが、実に新鮮な感覚で示唆に富んでいます。
 一部を抜き書きします。

 二階の手摺りから外を眺めていた男の目の前へ、小さな小鳥が飛来します。

「自分と鳥との間はわずか一尺ほどに過ぎない。
 自分は半ば無意識に右手(メテ)を美しい鳥の方に出した。鳥は柔かな翼と、華奢な足と、漣(サザナミ)の打つ胸のすべてを挙げて、その運命を自分に託するもののごとく、向うからわが手の中に、安らかに飛び移った。
 自分はその時丸味のある頭を上から眺めて、この鳥は……と思った。
 しかしこの鳥は……の後はどうしても思い出せなかった。
 ただ心の底の方にその後が潜んでいて、総体を薄く暈(ボカ)すように見えた。
 この心の底一面に煮染(ニジ)んだものを、ある不可思議の力で、一所(ヒトトコロ)に集めて判然(ハッキリ)と熟視したら、その形は、――やっぱりこの時、この場に、自分の手のうちにある鳥と同じ色の同じ物であったろうと思う。
 自分は直(タダチ)に籠の中に鳥を入れて、春の日影(ヒカゲ)の傾くまで眺めていた。
 そうしてこの鳥はどんな心持で自分を見ているのだろうかと考えた。」

 散歩に出たら、五六間先の小路の入り口に立っている女の顔に、心の照準がロックオンとなってしまいます。

「その顔は、眼と云い、口と云い、鼻と云って、離れ離れに叙述する事のむずかしい――否、眼と口と鼻と眉と額といっしょになって、たった一つ自分のために作り上げられた顔である。
 百年の昔からここに立って、眼も口もひとしく自分を待っていた顔である。
 百年の後まで自分を従えてどこまでも行く顔である。黙って物を云う顔である。」

 後を向いたので追いかけて行くと小路を曲がった女は不意にふり返り、急に右へ曲がります。

「その時自分の頭は突然さっきの鳥の心持に変化した。
 そうして女に尾(ツ)いて、すぐ右へ曲がった。
 右へ曲がると、前よりも長い路次(ロジ)が、細く薄暗く、ずっと続いている。
 自分は女の黙って思惟するままに、この細く薄暗く、しかもずっと続いている路次の中を鳥のようにどこまでも跟(ツ)いて行った。」

 主人公は小鳥に惹かれた瞬間、〈自分〉が希薄になりました。
 手に飛び移ってきた小鳥と飛び移られた自分と、どちらがどちらに惹かれたのかわからなくなりました。
 自分よりも、手中に収め、籠へ入れた小鳥が主人公になりました。
 そうした気持のまま、でかけた先で、見知らぬ女性に惹かれ、たちまち、自分は〈小鳥〉になりました。
 あとは、〈籠に入れられる〉まで、ついて行くことでしょう。

 実に心は不可思議です。
 何かの拍子に情報の処理が少しずれ、いつもの自分から少しずれてしまうと、ずれたままで行き着くところまで行ったりしかねません。
 警察官までが危険ドラッグにはまってしまうのは、ほんのわずかな心の綻びを放置しておくためです。
 誰しもが、常に、揺るぎない日常生活を送れるわけではありません。
 人生は想定外のできごとの連続です。
 いつものように安定した情報処理ができず、あまり考えないままに、ちょっと違う方法や方向へ半歩、向きかけた時が分岐点です。

 相手が異性でも、あるいは宗教や政治でも、自分の中で〈夢中〉や〈熱狂〉が始まった時は、〝これはどういう事態なのか?〟と客観的に状況を眺めてみたいものです。
 もちろん、世間の〈夢中〉や〈熱狂〉にも警戒は怠れません。
 時折、ピンと背筋を伸ばし、深呼吸し、万事「知らぬ間に」とならぬよう注意しましょう。

 今日の守本尊阿弥陀如来様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=4OCvhacDR7Y



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 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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