コラム

 公開日: 2014-08-26 

【現代の偉人伝 第195話】 ―徳は魔除けと活性化の力―

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。


 午前3時、天地の主人公は秋の虫たちです。
 今朝は、目覚ましのために、貴重な2分21秒を使い、オリヴィエ・メシアンの『世の終わりのための四重奏曲』第一楽章「水晶の礼拝」を聴きました。
 メシアンは解説しています。
「朝の3時と4時の間に、鳥たちは目覚める。
 光り輝く響きと木々のこずえ高く消えてゆくトリルの光輝のただ中で、ツグミ、あるいはナイチンゲールが即興的なソロをうたう。
 これを宗教的次元に移し換えよう。
 あなたは調和に満ちた静寂を得るだろう。」
 鳥たちはまだ寝ているし、ツグミはまだ、飛来していません。
 自然の音をバックにして、ほんのひととき流れた現代音楽が終わってみると、虫の声と静寂が不思議な共存をしていると感じます。



〈産経新聞様よりお借りして加工しました〉

1 亡き戦友へ詣でる人

 目に焼き付いた写真と記事を思い出しました。
 8月16日付の産経新聞が掲載した元陸軍兵士杉浦彦示氏(92才)です。
 初めて靖国神社を訪れた氏は、記者へ語りました。

「私が所属していた陸軍は行軍があって勝手に休めないから……。
 つらくて自決する人も少なくなかったんですよ」
「軍隊は『運隊』だとよく言っていた。
 弾が当たれば運が悪かったと思うしかない」

 記者は書きました。

「セミの鳴き声だけが響き渡る中、腰の曲がった杉浦さんは、少しでも姿勢を正そうと、必至につえで体を支えていた。
 少しでも鎮魂の思いが届くように、と。」

 今の自衛隊ですら、心が不調になる人々は後を絶ちません。
 勝手に休めない行軍ではいかなる気持だったのか……。 
 運に任せて撃ち合いの場にでかける若者は、いかなる気持で日々を生きていたのか……。
 学徒兵の遺稿集『きけ わだつみのこえ』などは涙なしに読めませんが、衆目を集める遺書とならなかった無数の方々の思いは、忖度しきれるものではありません。
 15才から志願して海軍にいた氏が、腰の曲がった今も戦友たちの前で姿勢を正そうとする強い目の光に、私たちの持つ根源的な〈徳の力〉を感じました。



〈朝日新聞様よりお借りして加工しました〉

2 土砂災害で救済に当たった住民の方々

 8月25日付の朝日新聞は、広島市安佐北区の可部地区で、20日朝、土砂崩れが起こった直後に救助作業を行った住民たちについて報じました。
 午前5時過ぎ、元自治会役員の中村光政氏(68才)は、被害がでていると聞いてただちに役員へ招集をかけ、一人で現場へ行きました。
 押し潰された家にいる老夫婦の救助作業に駆けつけていた4人の消防隊員に言われました。

「命の保証はできんけど、手を貸してくれたら助かる」

 いつの間にか20人もの男性住民が集まり、茶碗で泥をかき出すなど必至の活動が始まり、午前8時頃にはかけつけた孫が「おじいちゃん、来たよ!」などと呼びかけました。
 近くの集会所に集まった女性たちは「おにぎりや味噌汁を作り、救出に当たる男性たちを支え」ました。
 正午過ぎに妻、午後2時過ぎには夫が意識のある状態で救出され、「住民たちは拍手して喜んだ」そうです。
 9月24日には、全国からボランティアの人々が駆けつけました。
 大事な仕事を休んだ方も、あるいは、あまり世間の光が当たらないところでひっそりと暮らしている方々もおられることでしょう。
 命の保証がないところに踏みとどまっても仲間を救おうとする人々、見ず知らずの相手へ身施(シンセ…身体を用いる布施)を実践する人々。
 こうした姿こそ、私たちが世界へ誇ることが許される〈徳ある文化〉を表していると言えるのではないでしょうか。



3 福島第一原発の所長だった故吉田昌郎氏

 事故調査・検証委員会が故吉田昌郎元所長から聞き取った400頁に及ぶ調書がようやく公開されることになりました。
 すでにいろいろと報道されていますが、昨夜のNHKテレビでニュースの最後に紹介された氏の言葉は耳に残りました。

「口幅ったいようだが、ここの発電所の発電員、補修員は優秀だ。
 今までトラブルも経験し、肌身で作業してきた経験があるから、これだけのことができたと思う。
 私が指揮官として合格だったかどうか、私は全然できませんけども、部下たちはそういう意味では、日本で有数の手が動く技術屋だった。」

 ここに、〈現場の人々〉の矜恃も名誉も尽くされているのではないかと感じました。
 氏は、別の場で、爆発後の建屋へ向かう部下たちの背中を見て「菩薩(ボサツ)を感じた」とまで述べています。
 私たちは、経験したことのない危機的状況で右往左往する関係者たちへ狭い視野から批判を重ねるよりも、死の恐怖に耐えながら毅然と行動した現場の方々に想いを致し、自らの姿勢を正す気持になりたいものです。
 ここには、線路に落ちた人を救おうと線路へ飛び降りる人の思いと共通するものがあります。
「そうしないではいられなかったから、降りたのです」
 私たちが魂を揺すぶられるのは、彼らの〈徳の光〉に、眠っている徳が共鳴するからではないでしょうか。

4 徳は魔除けの力

 徳の文字はそもそも、呪力を孕む目が持つ魔除けの威力を指すものでした。
 白川静の『字統』は教えています。

「そのような威力が、呪飾による一時的なものでなく、その人に固有の内在的なものであることが自覚されるに及んで、それは徳となる」

 私たちの霊性が具体的な行動という形をとる時、それは徳の力、徳ある文化、徳の光として輝き、悪しきものや魔ものたちを自然に教化し、浄化し、人間として大切なものを守ることができます。
 兵士の鎮魂も、住民の救助活動も、事故現場のプロたる仕事も、ともすれば眠りかけている私たちの徳を活性化させてくれます。
 自分の得に走らず、自他の徳に感応し、霊性を持つ者として生き生きと歩もうではありませんか。

 今日の守本尊不動明王様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=EOk4OlhTq_M



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 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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