コラム

 公開日: 2014-08-27 

自我は滅するか? ―仏教的視点から観た自我(3)―

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。





 仏教は、「〈永遠で、単一で、独立した〉自我はない」という意味で自我は空(クウ)であり、心と身体と無関係に存在する自我はないという意味で「無我」であると判断しています。
 この見解は、日常感覚における〈自分〉という経験的存在である意識を否定するものではなく、日常生活的思惟の範囲でつかむ真理を「世俗諦(セゾクタイ)」と言います。
 一方、「ここにいると思うからいる」といった判断の先を問い、お釈迦様のような深い瞑想を行ってつかむ真理を「真諦(シンタイ)」または「勝義諦(ショウギタイ)」と言います。
 仏教における無我は、そうした宗教的体験によって確信できる真諦の範疇(ハンチュウ)に入りますが、日常生活的思惟によっても、ある程度、論理的な理解を得ることは可能です。
 この「ある程度」とは、「理解した真理に添って生きられるかどうかは別にして」という意味です。
 たとえば、私たちは、わかっちゃいるけどやめられない場合が往々にしてあります。
 飲み過ぎ食べ過ぎの繰り返しや、各種の依存症などを見れば、明らかです。
 仏教は哲学ではなく宗教なので、つかんだ真理どおりに生きることを目ざす以上、真諦こそが羅針盤となります。

 また、「因と縁によって果がある」という真理によって、「『明らかで、ものを知ることができる』という本質を持つ意識」の因をどこまでさかのぼっても、因の始まりは見つけられません。
 だから、「意識の実質的な因にははじまりがないので、それに依存して名前を与えられただけの存在である『自我』にもはじまりがない」ということになります。

 ここまでが、(1)と(2)で検討した内容です。
 今回は、空であり始まりがない自我は滅するものなのか、ということを考えましょう。
 最初に述べたとおり、一連の稿はダライ・ラマ法王著『ダライ・ラマの般若心経』をテキストとしており、さまざまな解き方がある最後の問題については、テキストを正確に追ってみます。

 法王は、この問題について仏教の中でも見解は分かれていることを示します。

「仏教の四つの哲学学派の中で、小乗(ショウジョウ)仏教の学派である説一切有部(セツイッサイウブ)には『無余涅槃(ムヨネハン…煩悩と肉体を滅して心身の束縛から離れた小乗における完全な涅槃)に至った時は意識の連続体の流れは途切れる』と主張している人たちがいます。」

 四つの哲学学派とは、小乗仏教の説一切有部(セツイッサイウブ)と経量部(キョウリョウブ)、大乗仏教の中観派(チュウガンハ)と唯識派(ユイシキハ)です。

「しかし、これ以外のすべての仏教の哲学学派は、『意識の連続体の流れが途切れることはない』と主張しています。
 なぜかというと、どのような現象であっても、その現象が存在し続けることを妨げる力を持つものが存在するならば、その現象は滅することがありますが、その現象が存在し続けることを妨げる力を持つものが存在しなければ、その現象が滅することはないからです。」

 仏教は「人間は死ねばゴミになる」とは考えません。
 なぜなら、ゴミになるのはあくまでも身体というモノが火に焼かれ、灰がやがてバクテリアに分解されるからであり、そうしたモノの世界をいくら精密に追っても、意識の世界における因果の理とは何の関係もないからです。

「たとえば、私たちが持っている間違ったものの考えかたには、それを滅することができる正しいものの考えかたが存在するため、間違ったものの考えかたは滅することができます。」

 たとえば、一昔前は、体育系の部活に兎跳びが欠かせませんでした。
 しかし、現在の体育理論により、兎跳びで神社の階段を登るような行動は否定されており、もしも今、部長がこれを採用すれば、暴力やいじめと非難されることでしょう。
 また、半世紀前は、DDTという薬品がノミやシラミの駆除に有効であると考えられ、子供たちは皆、頭が真っ白になるほどDDTをかけてもらったものですが、DDTの危険性が明らかになった今、それをやれば暴行や傷害の罪に問われかねません。

「しかし、『明らかで、ものを知ることができる』という心の本質を滅することができるものは存在しないので、意識の連続体の流れは存在し続けて、仏陀の境地に至るまでずっと続いていくのです。」

 注意したいのは、「心の本質」を問題にしているという点です。
 もしも、「心の状態」であれば、病気や加齢によってさまざまに変化しますが、そうしたレベルの話ではありません。
 前回の(2)に書いたとおり、意識には身体のありようと密接につながった「粗いレベル」と、瞑想によってつかめる「微細なレベル」があり、法王はその全体を貫く本質について考察しています。

「以上の理由から、『自我』にははじまりがなく、終わりもない、と仏教では主張しているのです。」

 始まりがない無数の過去世(カコセ)における善業(ゼンゴウ)と悪業(アクゴウ)を背負った私たちは、それぞれに、特定の自分としてこの世へ生まれ出ました。
 いかなる自分に生まれたかは、過去世に、その原因があります。
 そして、この世で積み続ける善業と悪業は必ず原因となり、来世(ライセ)のありようが決まります。
 因果応報は必然です。
 8月の機関誌『法楽』作りでは、『童子教』の一節を学びました。

「夫(ソ)れ積善(セキゼン)の家には  
 必ず余慶(ヨケイ)有(ア)り
 又好悪(コウオ)の処(トコロ)には  
 必ず余殃(ヨオウ)有(ア)り
 人として陰徳(イントク)有(ア)れば  
 必ず陽報(ヨウホウ)有(ア)り
 人として陰行(インコウ)有(ア)れば  
 必ず照名(ショウミョウ)有(ア)り」

(善行を重ねる家には、
 必ず後々まで良いことが起こる。
 悪行を好む家には、
 必ず後々まで悪しきことが起こる。
 まっとうな人間の道を歩むために目立たぬ徳行を積んでいれば、
 必ず良い報いがある。
 まっとうな人間の道を歩むために陰で善行を積んでいれば、
 必ず称賛を受ける時が来る)

 この教えは、この世だけを問題にしているのではありません。
 前世から来世へとつながる業(ゴウ)を説いています。

 明らかに、自我は無始、無終です。
 空(クウ)なる自分として今、たまたま、ここにいられることに感謝し、これまでの善行(ゼンギョウ)と悪行(アクギョウ)をふり返り、自他のために善行を選択したいものです。
 
 今日の守本尊勢至菩薩様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=qp8h46u4Ja8



 ご関心のある方は当山のホームページ(http://hourakuji.net/)をご笑覧ください。
 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。合掌

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