コラム

 公開日: 2014-06-28  最終更新日: 2015-07-28

「父のことば」

私の父は寡黙な人で、背中の大きい存在感のある人でした。
普段はとても穏やかな人でしたが、怒ったときの 「鶴の一声」 は、とても迫力がありました。
その一声に、私たちは飛び上がり、後はシュンとするのでした。

近寄りがたいという感じでは、決してなかったのですが、
小さい頃から私はどうしても、父の前では膝を崩すことができませんでした。
「お父さんが帰ってきたよ」 と言われると、必ず居ずまいを正して父を迎えたのを覚えています。

晩年は病気がちで、入退院を繰り返した父でしたが、
それでも最後まで諦めることなく病に向き合い、4年前に亡くなりました。80歳でした。
そんな父が言った 「ひと言」 を、私は忘れることが出来ません。

それは、父が体調を崩して入院した時のことでした。

母はいつも父に 「じ~じ、愛してるよ!」 と声を掛けていました。
すると父も 「ば~ば、愛してるよ!」 と返事をしました。
これは、朝晩の 「おはよう」 「おやすみ」 の挨拶と同じように、二人の間で交わされてきた言葉でした。
父と母は同い年で、昭和ひとけた生まれです。
私は、いつもその光景を見ながら、父と母の夫婦としての姿を、微笑ましく思っていました。

その日も母は、いつものように 「じ~じ、愛してるよ!」 と病室の父に声を掛けました。
父も 「ば~ば、愛してるよ!」 と返事をしましたが、その声は少し弱い声でした。
今日は少し調子が良くないのかな?・・・と私は思いました。

すると、母は何を思ったのか 「じ~じは、誰を一番愛しているの?」 と父に聞いたのです。
なんで今そんなことを聞くんだろうと思っていると、父は少ししんどそうにしながらも答えました

「ば~ば」

それを聞いた私と妹が「ば~ばだって!ごちそう様!」と冷やかすと、
父はちょっとびっくりした顔をしました。
どうやら、ベッドの足元の方に座っていた私と妹に、父は気がついていなかったようでした。

そして母が 「いいんだよね~!じ~じは ば~ばを一番愛してるんだよね~」 といったとき
父が言ったのです。少し照れた様子で、苦しそうな息をしながら、ひと言こう言ったのです。

「みんな」

それを聞いた私たちは、それこそ 「みんな」 で声を上げて笑いました。
「ば~ばが一番」 と言ったのに、私と妹がいることに気づいて言い直した言葉 「みんな」
父らしいと、私はその時思いました。

そして、それが父と交わした 「最期のことば」 になりました。

その日、父が逝ってしまうなど、誰も思っていませんでした。
それまで何度も 「峠」 をこえて、様々な病を克服してきた父でしたから
その時も、主治医の先生の診立て通り、2週間もすればまた元気に退院できると、
家族の誰もが思っていました。

おそらく父も、そう思っていたでしょう。
ですから父は私たちに 「ば~ばを頼む」 とも 「家族仲良く」 とも何も言わずじまいでした。
私たちも 「家族で頑張るから」 も 「ありがとう」 も何も言えずじまいでした。

でも父は私たち家族に、かけがえのない言葉を残してくれました。
「みんな」・・・この言葉に私は支えられています。
震災の時も 「父が家族みんなを見ていてくれる」 そう思って頑張りました。
「父が家族みんなを守ってくれる」 そう思って乗り越えました。
きっとこれからも私は、父のこの言葉に支えられて、生きていくと思います。

父の言った 「みんな」 という言葉は、私にとってかけがえのない宝物です。
皆さんにとって「かけがえのない言葉」はなんですか?

父の好きだった額あじさいが 今年もきれいに咲きました
父の好きだった額紫陽花が 今年もきれいに咲きました

ホームページにも ブログを掲載中です。ぜひご覧ください!! 
http://www.stage-up.info/

この記事を書いたプロ

ステージ・アップ [ホームページ]

講師 長野淳子

宮城県仙台市泉区鶴が丘1-5-23 [地図]
TEL:022-371-8435

  • 問い合わせ
  • 資料請求

このコラムを読んでよかったと思ったら、クリックしてください。

「よかった」ボタンをクリックして、あなたがいいと思ったコラムを評価しましょう。

4

こちらの関連するコラムもお読みください。

<< 前のコラム 次のコラム >>
最近投稿されたコラムを読む
セミナー・イベント
司会メンバー 一覧
イメージ

学生時代から 演劇を志し 在仙の劇団にて活動1985年から フリーアナウンサーとして独立しテレビ・ラジオ番組の 司会・ナレーション・リポート・CMなどを担当その...

お客様の声
イメージ

◆「来てよかった」の一言です。ステージ、BGM、すべて素敵でした。ありがとうございました。◆自身の経験と重なる部分が多くあって、あるあるとうなずきながら楽しま...

プロへのみんなの声

全ての評価・評判を見る>>

 
このプロの紹介記事
長野淳子 ながのじゅんこ

言葉の力で自分も周りも幸せに(1/3)

何気ないひと言に、癒されたり、奮起したり、涙したり―そんな「言葉の力」を感じたことは、だれもが一度はあるのではないでしょうか。「ステージ・アップ」の代表、長野淳子さんは、その言葉の力を生かして人々の心や行動を前向きな方向へ導いていくプロ...

長野淳子プロに相談してみよう!

河北新報社 マイベストプロ

3000件以上の司会経験をもとに「生きた言葉」をお届けします

会社名 : ステージ・アップ
住所 : 宮城県仙台市泉区鶴が丘1-5-23 [地図]
TEL : 022-371-8435

プロへのお問い合わせ

マイベストプロを見たと言うとスムーズです

022-371-8435

勧誘を目的とした営業行為の上記電話番号によるお問合せはお断りしております。

長野淳子(ながのじゅんこ)

ステージ・アップ

アクセスマップ

このプロにメールで問い合わせる このプロに資料を請求する
このプロへのみんなの声

人と接する仕事をしているので、とても役に立ちました。

● 「第一印象」はとても大切だと思いました。 仕事で役立...

K・S
  • 30代/女性 
  • 参考になった数(11

このプロへの声をもっと見る

プロのおすすめコラム
ある男性に言われた言葉 「顔は大丈夫ですか?」
イメージ

先日、久しぶりに芝居を観に行った時の事。見終わって席を立ち、ロビーに出るために階段を昇り始めた時、前...

[ 暮らしの中で ]

テレビ番組の言葉 「人はずっと成長していける」
イメージ

毎朝楽しみに見ている 連続テレビ小説。いよいよ終盤近くになり、新たな展開を見せています。そうした中で...

[ 言葉のちから ]

日本薬局協励会で 講演をさせて頂きました。
イメージ

先日、日本薬局協励会 宮城支部主催の新年会で 講演をさせて頂きました。参加して下さったのは、薬局を経営して...

[ 講演会・セミナー・講座 ]

朗読ボランティア 「杜の音通信」 平成29年1月号 
イメージ

平成26年の9月から、月1回のペースで朗読ボランティアに伺っている 「ギャラリー杜の音」1月は、以下の3作品を朗...

[ 朗読 ]

朗読劇 『口紅のとき』 公演ダイジェスト
イメージ

12月3日㈯ せんだいメディアテーク7階の スタジオシアターにおいてステージ・アップ主催の朗読劇 「口紅の...

[ 朗読 ]

コラム一覧を見る

スマホで見る

モバイルQRコード このプロの紹介ページはスマートフォンでもご覧いただけます。 バーコード読み取り機能で、左の二次元バーコードを読み取ってください。

ページの先頭へ